第3話 う・わ・き
幸奈が本当に浮気をしているのかを暴くと決心してから数日が経過した。
雪奈からの情報によると、幸奈はどうやら今週の休みにまた友達と何処かへ行くと言っているらしい。俺は聞いていないが、雪奈が聞いたところ幸奈はそう答えたようだ。
俺と雪奈はその休みに友達と遊ぶという幸奈の事を尾行してその真実を確かめるという訳である。
正直こんなことなんてしたくはないけれど、覚悟を決めたのだからしなければならないだろう。
本当にただ、友達と遊んでいるというだけの可能性が全然ある。その場合は幸奈と話し合ってお互いの妥協点を見つけていくだけだ。そうすれば、また一歩関係を前進させられる。
もし本当に浮気をしていたら.............その時は、きっと俺は幸奈という少女に興味を無くし、もう二度と関わることは無くなるだろう。最後に話すのは別れるときだけになる。
幸奈との思い出もただの記憶になり、風化し忘れていくことになる。俺はそうはなりたくない。この先もずっと幸奈と一緒にいたい。結婚して、最初は大変かもだけれど、仕事を頑張って、子供を二人で育てて……
色々と幸奈との将来を妄想するが、これも今日で潰えると思うと胸が苦しくなる。
「.............ふぅ、よしっ。行くとするか」
鏡の前に立ち、身形を整えてから行くとする。一応変装用に帽子を被り、眼鏡をかけておくことにする。
いつもの俺とはかなり違うから、もし万が一気づかれそうになっても知らないふりをして逃げればいい。
財布とスマホをもって身軽な形で、外へと出た。今の時代、カメラなんて持たなくてもスマホ一つで何でもできるから凄いよな。
『家出たけれど、雪奈は?』
『私も今、出てお姉ちゃんの後を追ってる。多分これは駅に向かってるっぽい。幸人も駅に向かって。そこで会おう?』
『分かった』
雪奈と連絡を取りつつ、俺も駅へと向かう。きっと駅で幸奈はお友達と待ち合わせをしているんだろう。俺は自分にそう言い聞かせて、重たい足を上げて駅へと向かうことにした。
いつもはそこまで遠くない距離だと思っていた駅へと道のりが物凄く遠く感じながら歩くこと十数分程度。
俺は駅に着いた。
雪奈は何処にいるのかと探していると、帽子を被って眼鏡をかけた俺と似たような恰好をした女の人がいるのを見つけた。
『雪奈、右向いて』
俺がそう送ると、その女の人が右を見た。手を振ってみると振り返されたため駆け寄る。
「おはよう、幸奈は何処に行った?」
「おはよ、幸人。改札抜けて行ったから、幸人の事待ってた。でも何番線に乗ったかまでは私もついて行って見てきたから大丈夫。電車まであと数分しかないから急ごう?」
「分かった。じゃあ、 行くか」
「うん」
雪奈に先導されて付いていくと遠目だが、駅のホームでスマホを弄りながら電車を待ってる幸奈を見つけた。
雪奈と俺はコソコソとギリギリ幸奈が見えるところでバレないように幸奈を観察することにした。
もしかしたら声でバレてしまう可能性も否定できない為、LEINでやり取りをすることにした。
『どこに行く気何だろうね?』
『分からない。けれど、ただ友達と遊ぶだけだといいね』
『そうだね』
電車が来て別の車両に乗り込んだところで、話を再開させる。
幸奈がいつ降りるのかを確認しつつ、電車に乗られること十分程度。隣の車両にいた幸奈は降りるみたいなので、俺たちも降りる準備を始める。
ここは……俺と幸奈が映画とかみたりしていた時に使っていた駅だ。
幸奈の後に続いて俺たちも彼女の事を追いかける。
まだ、相手方は来ていないようで幸奈は柱によりかかりまたスマホを弄り始めた。きっと連絡を取り合っているのだろう。
心臓がドクンドクンと鼓動して、胸が苦しくなってくる。幸奈とのデートで待っているときはこんなに焦らないのに。
どうしてこんなに苦しいんだ。
俺はどうしても最悪を想定してしまう。幸奈が浮気をしているんじゃないかと。
「幸人、大丈夫?」
「あぁ……うん、大丈夫」
俺は神に祈りながら審判の時を待った。
じっと幸奈の事を見ていると、彼女は徐に顔を上げて笑顔いっぱいに手を振った。
その視線の先にいた人物は.............俺の知らない男だった。
幸奈はその人物と親し気に腕を組み少し喋った後、歩き始めた。
「.............あぁ」
「幸人.............」
どうしようもない虚無感が胸を襲った。
「なぁ、雪奈。あの人って、雪奈達の従弟とかではないよな」
「うん。私、あの人のこと知らないもん。誰なんだろう、あの人。うちの学校にもいないよね?私達高校生より大人っぽいし……大学生、かな?」
「分からない」
「きっとバイト先の先輩かも」
「……そっか」
俺はやり切れない思いと、それと同時にどうしようもない自分の惨めさを呪った。今までの思い出が全部ドロドロと溶けていくような感覚に陥った。
「幸人、大丈夫?辛い、よね」
俺の隣にいた雪奈は俺が相当辛く見えたのか、ギュッと手を握り締めてくれた。
「私がいるから。大丈夫、だからね」
そう言って俺の頭を雪奈が撫でた。
いつかそんな言葉を雪奈に対して言ったことがあった。公衆の面前でこんなことをするのは、恥ずかしがり屋な雪奈にとってはキツイことだろうに。
その優しさが俺の心に響いた。
「大丈夫、だよ。幸人は偉いよ、頑張ったね。辛かったよね」
「……あぁ。うぅ……」
瞳から涙が零れ落ちた。
彼女は頭から手を放し、俺の事を抱きしめた。彼女の胸はフカフカとしていて、暖かくてどうしようもなく安心した。
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