第2話 ただの気のせいならいいな。

雪菜の憧れの大人っぽい俺のままでいられたらいいなぁ......なんて思っていたが......


「無理かもしれない」


 俺の口からそんな言葉がぽつりと出てしまった。俺がどうしてこんなことを思ってしまったのかと言うと、理由は一つ。


 俺は今、彼女である幸奈の浮気を疑っている。


 あれだけ雪奈に友達との思い出が云々と語ったのにも拘らず、俺は今彼女の事を疑っているのだ。幸奈ことをを信頼している、小学生の頃からの長い付き合いであるから大丈夫だとかそんなことを思っていた。


 が、今となってはその信頼や長い付き合いを否定してしまうほど彼女の事を疑ってしまっていた。


 勿論、俺は理由もなく彼女を疑うなんて事はしない。理由なく彼女の事を疑うなんてそれこそ、俺の方が彼女と別れたいから言いがかりを付けたい、とか俺が浮気をしていてどうにか自分を正当化したいから相手に難癖をつけているだけだろう。


 俺が幸奈を疑いだしたのは、彼女の俺に対する接し方がなんといえばいいのだろう、遠くなった、冷たくなったと言えばいいのだろうか。


 例えばだが......


「なぁ、幸奈」

「何?」

「次の休みに前見たいって言ってた映画見に行かない?」

「無理。別の用事があると思うから」


 と若干声も冷たい感じで言われてしまい、


「幸奈、一緒に帰ろ」

「ゴメン、今日も友達と遊ぶから」


 と明らかに前よりも一緒に帰ったり登校したりする頻度が減っていたりしている。


 それだけではない。どうやら、雪奈せつなによると幸奈は日に日に帰る時間も遅くなっていて、幸奈には無かった趣味の物とかが増えているらしい。


 前までは普通にスマホとかを触っていて画面を隠すようなことなんてしていなかったが、今は俺から見えない様にしているようにも見えてしまっている。

 

 まぁ、帰る時間が遅くなったり新しいものが増えているのは、絡む友達が変化したからと納得はできるものの疑心暗鬼になってしまうとどうしても悪い方向へと考えが流れて行ってしまう。


 ただの勘だと言ってしまえばそれまでだが、勘と言うものはいくつもの事象や経験が積み重なって導き出される答えのようなものであるから案外馬鹿にはできないのだと絵理さんは言っていた。


 俺も最初はただ疑うだけでなく、幸奈とちゃんと話そうと場を設けたり幸奈との時間を出来るだけ多くとろうと努力していたがその努力も実ることは無かった。


「はぁ……」

「幸人、どうしたの?溜息なんてついて」

「ん?あぁ、雪奈せつなか」


 今日も今日とて、幸奈に振られた俺は一人寂しく帰っていると後ろから追いかけてきたのか、少し頬が赤い雪奈がいた。


「もしかして、お姉ちゃんの事?」

「……まぁ、そうだな。今日も幸奈とは一緒に帰れなかったよ」


 俺がそう言うと、雪奈は何を思ったのか決心した面持ちで俺の方へと顔を近づけてきた。


「幸人」

「う、うん」

「お姉ちゃんが、本当に友達と遊んでいるだけなのかを暴かない?」


 そう言った雪奈の目は本気の目をしていた。


「そ、それは……幸人もこのままじゃいけないってことくらいわかっているんでしょ?」


 それは俺も分かっている。こんなに恋人の事を疑っている状態で関係を続けていても良くはないことくらいわかっている。それじゃあ、なんで雪奈が言った通り暴こうとしないんだ?


 ……俺はまだ、きっと幸奈の事を信用したいんだろうな。


 もし、本当に幸奈が浮気をしていたら、俺はきっと彼女の事を許せなくなるだろうから。だから、事実を見ることが怖いんだ。


 だけれど、これ以上この関係をダラダラと続けるのは良くないことは分かってる。


「……分かった」


 俺が一つ頷くと彼女も頷いた。


「幸人がお姉ちゃんを疑うのが辛いことは分かってる。お姉ちゃんが浮気をしているなんて私も思いたくはないけれど、一緒にがんばろう。本当にただ、友達と遊んでいるだけっていう可能性もあるから」

「そう、だな」


 本当にただの気のせいならいいな。


 

 


 


 


 




 

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