わからせもので最終的に許す展開が嫌いな俺は、彼女を許さない。
かにくい
第1話 大人っぽい俺
「
「あー、ちょっと今日も友達との用事があって、本当にごめん。次の休みにはデートできそうだから」
「分かった。楽しみにしてるね」
「うん。じゃあ、またね」
俺は恋人である幸奈から、一緒に帰ろうという提案を断られてしまった。ここ最近、多いような気もするが俺たちも付き合い始めてもう二年も経っている。付き合った当初ならば俺の事を優先してほしいと女々しいことを思ったかもしれないが、今となってはそうは思わない。
だからと言って、幸奈の事をどうとも思っていない何てことは決してない。俺は幸奈の事が大好きである。それは今も変わらない。そうだな、これは交際二年目、出会ってからの月日で言えば、小学生の頃からの長い付き合いである。これは俺が幸奈を信頼しているからこそであった。
幸奈も付き合ってからの記念日や誕生日、大事な日には必ず俺と居てくれるし、楽しそうな笑みを浮かべてくれている。
これだけ一緒にいるのだ。今更、一緒に帰れない程度でぎゃあぎゃあ喚かれる方が幸奈も困るだろう。
校舎から出て数歩歩くと、後ろから幸奈に凄く似た声で俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、
「あぁ、うん。今日も幸奈は友達と一緒に遊ぶんだってさ」
「お姉ちゃんってば、また幸人の事を放って友達と遊びに行くんだ。最近多いね」
「まぁ、恋人も大事だけれど、今高校生として友達と居られる時間は限られているんだから、恋人の俺だけに集中しろなんてのは、少し我儘すぎると思う。だから、仕方ないよ」
「幸人は凄いね、やっぱり」
「どうした急に」
「私はそんな風には割り切れないかも。だって、まだ私はお姉ちゃんが居なければ……」
と何事かをボソボソと
坂下雪奈。
幸奈の双子の妹である。幸奈と同じ声、そして似ている顔をしているものの性格はかなり違うと言っていい。
髪は幸奈とは対照的に短くてボブカットくらいである。幸奈は腰あたりまで黒髪を伸ばしている。結ったりしているため、そうは見えないけれど。
今ではこんな風に普通に喋りかけたり堂々としている雪奈だけれど、昔はかなり臆病な子だった。何をするにも俺の後ろか幸奈の後ろにいたような気がする。だけれど、今はこうしてみんなの前で堂々としている。大きくなったよな、雪奈。
「どうせ俺は、今日も一人で帰るし雪奈も一緒に帰るか?」
「うん!!」
他の女の子ならば一緒に帰ることは問題だけれど、相手が雪奈ならばその限りではない。だけれど、一応念のために幸奈には雪奈と一緒に帰ることを写真を撮って伝えておく。
了承を取れたところで二人並んで歩き、電車へと乗り込み、最寄り駅で降りる。
「私も、いつか幸人みたいに大人っぽくなれるかな?」
「なれるよ、雪奈なら。というか、俺なんかをモデルにしないでもっといい人を目指した方がいいぞ」
そう言うと、雪奈は首を振って否定した。
「私は幸人じゃなきゃダメなの」
「...?そうか」
雪奈がそう小さくだが力強く言ったため、それを否定するのは酷な事だろうとそう思い、止めた。
「それじゃあ、またね、幸人」
「うん、またね雪奈」
母親は昔に死んでしまったため、俺に母親はいない。
自室へと帰り、夕飯の支度を始める。幼き頃から家事全般は仕事をしている父さんに代わってしてきたため、そこそこの家事スキルはある。たまに、雪奈たちが家にやってきて手伝ってくれたりするときもある。
幸奈は家事が苦手だが、雪奈は家事が得意で色々としてくれた。幸奈と付き合ってからは無くなってしまったが。
まぁ、逆に幸奈がミスをしながらも一所懸命に手伝ってくれる姿を付き合ってからたくさん見ることが出来て良かったなと思う。
お風呂の水を抜き、夕飯の準備をして置く。
今日はカレーでいいかと手早く作る料理を決めて取り掛かり、四十分も経てばあとは煮込む段階の所まで来ていた。
その間、水を抜いたお風呂を洗い、いつでも入れるようにしておく。
さて、ここまでくれば後は学校へ行く前に干しておいた洗濯物を畳んで、父さんの帰りを待つだけの段階になった。
洗濯物を取り込み、畳む合間に効率が悪いことは分かっているが、スマホで小説サイトを開き、読みながら洗濯物を畳む。
こうした少しの合間に読むことをができるネット小説は非常に便利である。紙媒体の物も良いけれど、ちょっとした合間に読めるこの手軽さが良い。
今日は更新されたかなといくつかブクマして更新されているものを読む。
現代のネット小説にはいろいろジャンルがあるが、俺が特に好きなものは分からせものやざまぁ系の小説である。
だが……
「いや、そうじゃない。もっと徹底的にやってもう立ち直れなくなるくらいにしなきゃ。なんで、もう一度浮気した奴とよりを戻そうっていう発想になるかな」
確かにヒロインが浮気をしてしまった理由も分からなくはないけれど、浮気をした人間なんて結婚してからもどうせいつかまた同じことをするぞ。そしてまたおんなじ理由で許してもらおうとするぞ。
信用何て一度過ちを犯せば壊れるのには十分すぎるからな。
まぁ、俺がそう思ってしまうのは俺の心が狭量だからかもしれない。それと、母が死んで父さんも仕事で家にいなかったために、母さんの妹である弁護士の
絵理さんは俺が正しくないことや屁理屈を言って誤魔化、また嘘を吐いたりしたときは凄く怒った。体罰とかではないが、悪いことは徹底的に罰する方針の絵理さんは物凄い口撃だった。
言っていることはすべて絵理さんが正しいために、俺は何も言い返せなくなってしまい、ただ泣くことしかできなかった。
でも、確かに絵理さんは厳しいけれど、凄く優しい人で尊敬している人だ。母さんが居なくて弱っていた俺の心を立て直してくれた恩人だと言っても良い。小さい頃は……というか今も俺は絵理さんのようになれたらなとそう思っている。
小さい頃、俺が絵理さんみたいな弁護士になるなんていった時は
「私は二人もいらないよ。幸人は幸人のしたいことを見つけて、自分の意思を持って進めばいい。だけれど、幸人が私のような人間になりたいと言ってくれたことはとっても嬉しいよ」
と絵理さんが照れながら俺の頭をゆっくりと撫でてくれたことを覚えている。
そんなわけで俺は浮気をしたり、主人公を裏切ったヒロインとかキャラたちの事は徹底的にざまぁをして欲しいと思ってしまう。
「幸人ー、ただいま」
「お帰り父さん。いま夕飯の準備進めるね」
「おう、分かった。いつもありがとうな」
残り少ない洗濯物をささっと片付けて、俺はお風呂を沸かす。夕食の準備も進めて、お皿に盛りつけ、テーブルに二人分の食事を並べる。
「幸人の料理はいつもうまいよな」
「偶には父さんの料理も食べてみたいけれどね」
「おう。じゃあ、今週末にでも俺が飯作るよ」
「まじ?ありがと。楽しみにしてるよ」
そんな会話をしつつ、父さんとの食事を終えて各々風呂に入り、髪を乾かし勉強をして歯を磨いて、時計を見ると11時だった。
ベッドへと入り、スマホを開く。
動画投稿サイトを見たり、また小説を読んだりしてゆったりしているといつの間にか12時半になっていたので流石に電気を消して、眠りにつくことにした。
だが、スマホを使っていたせいか眠ることはできなかったので、目を閉じて今日あった事を思い出す。
今日も幸菜と帰る事は出来なかったが、明日は帰る事ができるだろうか?幸菜もある程度友達と遊んだら、また俺と帰ってくれるだろう。
雪菜には幸人みたいな人になりたいって言われたな。俺は誰かの手本になれるような人間ではないと思っているがもし、雪菜が本当に俺を大人っぽいって思って俺を目指してくれるのなら、少しは絵里さんに近づけたのかな。
そこまで考えたところで、眠気が襲ってきた為、最後にこのまま雪菜の憧れの大人っぽい俺のままでいられたらいいなとそんな事を考えながら眠りについた。
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