武蔵野線は原野を走る夢を見るか?
以前、犯行場所探しをしたときは、〈新秋津と東所沢の間の武蔵野線が地面と同じ高さを走る桜の木のあるところ〉という程度の認識で探した。そんな薄い情報で見当をつけることができたのか、と首をひねるかたがいらしてもおかしくはない。少し補足が必要だろう。
武蔵野線の新座駅から西国分寺駅までの間は、ほぼトンネルで地下鉄状態という区間も多い。新秋津駅と東所沢駅の間は、ほとんどトンネルなのだ。トンネルとトンネルの狭間でも、谷底を走っているような感覚がある。線路の両脇にコンクリートの崖がそびえたち、上空に人々の生活する空間が存在する、という感じだ。ゆえに「武蔵野線が地面と同じ高さを走る」という記述だけでも、充分に場所を特定するヒントになる。
ここで、今回の旅で私がスタート地点とした武蔵浦和駅からJR武蔵野線の駅名を並べてみよう。西浦和、北朝霞、新座、東所沢、新秋津、新小平、西国分寺、北府中、府中本町。お気づきだろうか。九駅のうち、二つが「新」プラス地名という構造なのだ。秋津駅は西武池袋線に存在し、小平駅は西武新宿線・拝島線にある。
頭に「新」の字がつくのでまぎらわしいが、シンプルな地名のみの駅は新座のみ。残る六つのうち、五つは東所沢のように方角プラス地名だ。所沢駅は西武池袋線・新宿線にある。最後の府中本町も府中プラス本町であって、府中駅ではない。府中駅は京王線の駅だ。
地名の前に「新」や方角の名前がつく駅が多いということから推測できるように、武蔵野線は新しい路線なのだ。といっても、開通は昭和四十八年。「ある騎士の物語」は、この年に起きた事件とされている。
武蔵野という言葉からは広大な原野をイメージできるが、武蔵野線の線路の大半は平野に敷かれてはいない。武蔵浦和-府中本町間に限った話だが、武蔵浦和、西浦和、北朝霞、新座が高架駅、東所沢、新秋津、新小平、西国分寺は空こそ見えるものの谷底状態の駅なのだ。
脱線した、などと書くと話題が電車だけに縁起でもない、と鉄道関係者にお叱りを受けそうだ。とにもかくにも、話を元に戻そう。
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