恋ヶ窪駅は武蔵野線にない
アカニシンノカイ
ある意思の物語
武蔵野を扱った賞に、武蔵野が舞台のミステリという切り口でなにか書けないだろうか。いくつか作品が思い浮かんだが、面白く仕上げる自信がない。
そうだ、とひらめいたのは、かつて試みた「犯行現場探し」の旅をもう一度、やってみるということだった。
かつて私は大学生だった。通学には約二時間かかった。片道で、だ。
一日の十二分の一をどう使っていたか。読書だ。
あるとき、「ある騎士の物語」という短編ミステリを読んでいた。やり手の青年実業家が撃たれるのだが、その犯行現場がJR武蔵野線の線路沿いという設定なのだ。
私は震えた。なぜか。私をのせた武蔵野線の列車は、まさに死体の発見された場所に向かって進んでいくところだったからだ。
「たぶん、このあたりでは?」というところを見つけた記憶はあるのだが、はっきりと「ここだ、間違いない」と断定することはできなかった。
あの場所をもう一度、探しに行こう。見つからなくても、一つの読みものにはできるかもしれない。
問題がないわけではない。コロナだ。
私はプロのもの書きではないので、このささやかな旅も、書くことも仕事ではない。不要不急という今では少し懐かしくなった四文字を頭のなかでグルグルさせながら、計画を練った。プランを立てるだけならば、問題はなかろう。まずは作品を読み直すことから始めた。
被害者となる人物はあるものを受け取る約束を交わしている。興味をそがないため、そのブツがなにかは書かない。受け渡しの場所が私の探す犯行現場となる。
問題の場所は男の知人の【家のすぐ裏手の、武蔵野線の線路の金網のところ】、【新秋津駅と東所沢駅の中間で、線路の北側】。【近くに大きな桜の木があって、武蔵野線が地面と同じ高さを走るところはほかにないからすぐに解る】とある(註 【】内は作品より引用)。
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