第33話

初日の出


元旦も大晦日に続いて晴れる日が多いのは、皆んなが初詣に行きたいと祈るからだろうか?

天気予報は、快晴。

初日の出が見られそうだとニュースキャスターが嬉しそうに言っている。

初日の出。見たことあったかな?

車の免許を取った次の年、大学の先輩に誘われて千葉の九十九里浜まで運転手要員として行った事があったけど、その日は夜半までは晴れていたのに、夜明け前2時間くらいで雲が出始め、海岸線は砂嵐みたいな風が吹いて、結局ガストで夜明かしをして眠い目を擦って帰ってきた。伊豆半島ではよく見えたとTVでやっていたのを恨めしく思ったものだ。それだって今となっては良い思い出だけど、やはり初日の出をライブで見た事ないんだなぁと改めて思う。


そう思ったらムズムズしてネットで初日の出ポイントを検索して、天気予報と照らし合わせていたら、点けっぱなしのTVから紅白が終わり、除夜の鐘音が聞こえて来た。 もう、海での日の出は間に合わないだろうか。

そう思ってカーテンを開けて空を見上げるとお隣の明かりが見えた。

堀川さんまだ起きてるかな?

大晦日は特別という言い訳をして、LINEで起きてますか?日の出スポット知ってますかと聞いてみる。

するとすぐに返信が来て、

「ここら辺なら山に行くか、狭山湖でも見られるらしいよ。」と書いてあった。

「では、日の出を見に狭山湖まで行ってみませんか?」と誘う。

「えーパララン出てないかな?」

「パララン?」

「暴走族‼︎」

そうか、そういう集まりに巻き込まれるのはちょっとイヤだなとも思う。

「有名どころじゃなくても、東の空が開けてるところなら何処からでも見られるんじゃないかな?」

と言うので、日の出は6時半過ぎみたいなので、6時から車を走らせて見えそうな所まで行ってみましょうという事になった。

そんなやりとりをしていたら、年が明けてしまい、カーテンを開けて窓越しにおめでとうございますと頭を下げる。

堀川さんは、こっちにおいでと小さく手を振る。

こんな夜中に良いのかなとは思いつつ、誰に咎められる事もないので、上着を羽織って外に出た。



「明けましておめでとうございます。」と2人で頭をさげてから、

「かんぱ〜い。」とお屠蘇の代わりのグラスに注いだ日本酒で乾杯したけれど、そうだ運転するんだと唇を湿らす程度でグラスを置く。

年越しそばだけ食べていきなさいと、堀川さんが勧めてくれたので、冷たいざる蕎麦を啜った。

「やっぱり年越しそばは、ザルですよね。」と言うと、嬉しそうに

「だよね〜」と同意してくれる。

こういうちょっとした事の気が合うから一緒いてホッとするのだろうか。

車を走らせて、結局狭山湖に来ると案外人が出ていて皆んな日の出を待っている。遠くに音は聞こえたけれど、パラランにも会わずに済んだ。

犬を連れている人も多くて、チロも連れてくれば良かったかなと一瞬思ったけれど、あんな時間に村井さんのお宅を伺ったら、今まで築いてきた信用を失うだろうなと、その思いつきを振り払う。

東の空が薄らと明るくなって、オレンジ色の閃光が縁に沿って現れる。

その光が、太陽の形を取り始めると何処からともなく拍手が湧いて、その後シャッターを押す音が立て続けに聞こえる。

僕も、スマホを取り出して地上から切り離された生まれたての太陽をパチリと画面に収める。

「逆光ですけど。」と断って堀川さんを初日の出と共に写真に収める。

「君も撮ってあげるよ。」と言われたので、手を挙げてツーショットを撮ってみた。

それが初めて一緒に撮った写真だった。



そうやって元旦は、初めて初日の出を拝む事が出来た。

今年も初めてが沢山あります様にと、太陽を見上げながら思う。

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