第30話

クリスマス


買い物に行くと、どこでもクリスマスに因んだ音楽がエンドレスに流れていて、クリスマス何かしなきゃイカンよ!とせき立てられている気持ちになる。

去年のクリスマスは、妹がせっかく予約したディナショーなのに亭主が仕事でキャンセルになったから付き合えと言われて、ヒルトンのディナーをご相伴に預かった。

今年は、どうしようかな、ケーキぐらい食べようかなぁ、誰か誘ってご飯でも行くかな。と考えながら買い物をしていると、

「いっちゃん。」と知っている声で呼ばれる。

振り返ると粕谷夫人が、にっこりと微笑んでいる。今日は格別華やいで見えるのは、とうしてかしら?

そうだ、この間と着ているものが違うんだ。柔らかなサーモンピンクのモヘアのタートルネックに、オフホワイトのロングコートを羽織っている。あぁやっぱりこの人は明るい色がよく似合う。襟元にクリスマスをモチーフにしたブローチも可愛らしい。

「この間は、ご馳走様。あの後何回かチーさんのお芋で作ったらとっても評判良かったわよ。」と嬉しそうに話す。そして私の手を取って。

「ありがとう。主人から聞いたわ。皆さんにもお礼言わなきゃね。ご心配掛けてごめんなさいね。」

あぁ、ご主人からももう大丈夫って聞いてはいたけど、良かった。本当に良かったと思ったら、ホロリと涙が溢れた。

「あらやだ、本当に心配掛けたのねゴメンネ。」いつぶりかは忘れたけど、頭を子供の様に撫でられて、安心したのとイイおばさんなのに可笑しかったのとで、泣き笑いしてしまった。スーパーの通路で迷惑な話だけど。

粕谷夫人は、私を優しくハグしてもう一度、

「ありがとう。」と言ってから、

「さぁ、今年のクリスマスは、みなさんが何と言おうとパーティーよ。イイわね。」とウィンクした。

明るくて、元気で自信に満ちている。なんて素敵なんだ。


そんな訳で、クリスマスは粕谷夫人の主催でパーティーが開かれることになった。

流石にイブはみんなの都合が合わないので、イブイブでどうだ?となって23日に一番広いリビングダイニングを持っている新木田君の所での開催と決まる。

「料理やケーキは任せてちょうだい」と粕谷夫人が言ったので、それはお任せする事にした。

どうせなら、時間は無いけどビンゴやプレゼント交換だってやりたい。

ちょっとしたイタズラ心も芽生えて、新木田邸を風船等で思い切りファンシーなパーティー会場にしてしまおうと思い立つ。

そう思ったらワクワクして、トイザらスに行こうと車に向かうと、

「お出掛けですか?」と新木田君に声をかけられる。

「うん、トイザらスまで行ってみるつもり。ビンゴとかゲームとかあった方がパーティーっぽいからさ。」

「イイですね、僕もご一緒して構いませんか?トイザらス行った事無いんで。」

「あぁ、イイけど。」と言いながら、飾り付けにストップ掛からないかな?と心配してしまう。そんな思いをよそに、

「スミマセン、戸締りしてくるのでちょっとだけ待っていて下さい。」と新木田君はいつもの様に礼儀正しい。


ウチから車で航空公園方面に向かって空いていたら10〜15分で着く、駐車場の大きな小型のショッピングモールが在る。

スーパーや百均、若者向けのカジュアルファッションの店等が、長屋風になっていてその2階にトイザらスがあるのだ。

クリスマスの時期だからか、駐車場も店内もとても混んでいた。そうだよな書き入れ時だもんな。

トイザらスは、おもちゃだけじゃ無くて、自転車やベビーカーに哺乳瓶や小さな子供服まで売っている。

普段全く目にしない物が沢山あって面白い。アメリカ系の店だからかスターウォーズグッズがやけに充実している。自分が子供の頃こんな所に連れて来てもらったら、一日中楽しめただろうと思う。今も昔も変わらず、子供達は目を輝かせ棚を見て周り、コレ買ってと泣き喚いてる。

パーティーグッズのコーナーに行って、クラッカーや紙で出来たオーナメントに風船とヘリウムガスのボンベも2本をカゴに入れる。

どこか行っていた新木田君が離れた場所から、

「堀川さんこっちこっち。」と珍しくはしゃしだ感じで私を呼ぶ。


間近に控えたクリスマスだから、もうツリーはセールになっていて、そこにはサンタの衣装も並んでいた。

「これ誰が1番似合いますかね?」

新木田が、ニヤニヤしながら聞いてくる。

「誰かに着せるの?」

「せっかくだから、キャプテンにどうです?」

「体格から言ったらチーさんじゃない?」そうしようそうしようとなって1番大きなサイズの衣装と髭をカゴに入れる。

それからビンゴやクラッカーと黒ヒゲ危機一髪を買うことにして、長い長いレジの列につく。

子供達の嬉しそうに大きな箱を抱えている姿に、気持ちがホッコリとする。あぁこんな時期あったな。


短い準備期間の割に、色々な事がバタバタと決まり、何故かモロさんが土地貸ししている幼稚園へみんなで、行くことになった。

チーさんは案外サンタ役が気に入ったみたいで、こっちからサンタの格好で行くと張り切っている。大きな布袋を奥さんに用意してもらい、中に何やら詰め込んでいるみたいだ。さてどうなることやら。

てわやわんやのクリスマス会が始まる。

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