第25話

図書館での遭遇


平日の図書館は、お年を召した方に人気があって案外席が埋まっていて、テーブルで読んで帰るというより僕は、ベンチで気になった本をパラパラと読んで借りて帰ることが多い。

堀川さんに言われて、どんなスイートポテトにするかを検討する為に料理本を借りに来た。

図書館の良いところは、今では本屋さんでは手に入らなくなった代謝の早いHOWTO本が有る事だ。

今時のレシピ本に固い昔ながらなクッキーや、レモンがたっぷり入ったレーズン入りのベイクドチーズケーキは中々載っていない。そして、写真は綺麗で美味しそうなのに作り方がいまいち分かりづらいものも多い。

懐かしのレシピは、今時のと比べると砂糖の量がかなり多い気がするのは気のせいだろうか?

だけど、手順も事細かに写真や言葉で解説してある物が多いので、料理一年生としてはありがたい。でも、もっともっと古くなると、解説か逆に荒いということにも気づいた。材料表に載っていなくても手順の途中に粉砂糖大さじ2なんて出て来てビックリする。レシピや作り方見せ方等何にでも流行りが有るんだなと感心する。

そんなことを思いながらスイートポテトの作り方が載っている本を何冊か開いて眺めていると、

「新木田君?あら、どうしたのこんなところで。」と聞き覚えのある声で話しかけられた。


粕谷夫人に、スイートポテトの作り方はどれがオススメでしょうと聞くと嬉しそうに

「あら、もうお菓子もご自分で作る様になったのね。」と目を細める。

「まだプリンしか作ったことがないので、もしお時間が許したら今度教えて頂けませんか。」と言うと、

「そうね、近頃すっかりご無沙汰だったものね。いつが良いかしら?」

と請けあってくれる。

来週の月曜日か火曜日という事にして、堀川さんが駄目ならまた調整しましょうとなった。

それから、粕谷夫人は僕の知らない方々の方へ小走りで戻り、ペコペコと頭を下げながら言葉を交わすと、その集団が一斉に僕の方を向いた。

思わず下を向いて目線を外したけれど、中の背の高い貫禄のある三つ編み人と一瞬目が合ってゾクリとした。

暫く本を読むふりをしながら目を伏せてから、そっと目を上げるともうそこには誰も居なかった。

ハァーと息を吐いて、それまで息を詰めていた事に気付く。

何なんだこの緊張感。


借りて来た本を持って堀川さんのところに行って、来週の予定を聞く。

「そんなのその時メールとかLINEくれたらよかったのに。」と笑ってから

「でも、ナイス。丁度粕谷夫人と会いたかったから。取り敢えず私から火曜日って事で粕谷さんに連絡入れておくね。ちょっと調整が必要だからさと大家さんは策士のような眼をしてニヤリと笑う。

「何ですか?何か企みがあるんですか?サプライズとか?フラッシュモブを皆んなでやるとか言いはじめないで下さいよ。」

「んっ?フラッシュ何?」

「急に踊り出すやつですよ。」

「あぁそれはお祝い的なのでしょ?違う違う大丈夫。そう言うんじゃないから。」


そんな話をしていると、チーさんとキャプテンが、

「どうした、どうした。」とバタバタとやって来た。

「メンツが揃ったので説明するね。」と堀川さんから詳しく聞くと、この間話に上った勧誘トラブルに、粕谷夫人が巻き込まれているらしい。ちょっと信じられない。粕谷夫人は、ほいほいと怪しい話にほだされてしまうような方では無いはずだ。

でも、図書館で一緒いたお仲間は何だか妙な雰囲気だった気もする。もし本当に何か怪しげなものに巻き込まれているなら、粕谷さんがご自身で気付かれて離れて行く様に、お手伝いするのは吝かではない。

でも、若輩者の僕1人だったら物凄く直接的に「やめた方がイイ。」って言ってしまっていただろう。

若しくは、ご主人と一緒なって懇々と理を詰めたかも知れない。


お茶会の段取りを4人で大まかに決めてから粕谷さんのご主人と堀川さんが、メールでやり取りしながら確認していく。

今、僕の目の前で額を合わせて話合っているこの3人の相手を慮る心遣いは、年月を重ねたからこそ備わるものなんだろう。見習わなきゃなと思いながら黙って聞き入っていた。

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