第24話

初冬


シンと冷えた夜の空気を、換気の為に開けた窓から頬に感じて空を見上げるとオリオン座が低い位置に見える。

昼間陽の当たるところは暖かいと思っていても、もう冬なんだな。


先日の五島への旅行が、ずっと前にのように感じるのは帰ってきた時に、村井さんのお宅で事件が起きたからだろうか。

あの時は慌てた。村井さんは足を捻った位で大した事が無くて良かったけれど、私は歳を顧みずダッシュしたのが祟って、翌日は筋肉痛と、軽いギックリ腰でトイレに行くのがやっとだった。情け無い。

そんな訳で畑仕事は、暫くチーさんと新木田君に任せっぱなしだ。



昨日、掘ったサツマイモを届けに来てくれた新木田君が、

「今度はスイートポテトを作りませんか」と誘うので、どのやり方で作る気なのか聞いてみる。

「えっ、そんなに色々有るんですか?」とまだ何も調べていませんと言う表情になったので、

「まずお芋を焼くか蒸すか、煮るかから始まる訳よ。そんでもって裏漉しか、ミキサーか、マッシャーかでも口当たりが違うしさ。まぁ、サツマイモは日持ちするからちょっと考えておいて。」

「はい分かりました。」といつもの様に真剣に悩む姿が微笑ましい。

「では、今回の料理は何にしましょう。」

「今日は、稽古日だっけ?」

「明日でもイイですよ。予定も無いし。」

「まだちょっと腰が痛むから、マッサージか整体に行こうと思ってるんだよね。」

「じゃあ明日にしましょうか。それから痛みが取れたら筋トレするとイイですよ。ギックリ腰は腹筋と背筋のバランスの悪さからくるみたいですから。なるべく鍛えておいた方が再発しませんよ。」と心配顔で言われてしまった。

「ありがとう、痛みが取れたら体操するよ。」

「そうだ体操って言えば、昨日…」

「寒いからさ、玄関先じゃなんだからまぁ上がれば。コーヒー淹れるよ。」と新木田君を招き入れる。



コーヒーを飲みながら聞いたのは、公園で渡された体操クラブのチラシの話で、何やら怪しい勧誘の窓口なっているかもしれないと言うのだ。

もしかしたら、それがこの間「啄木鳥」でモロさんが言っていたものかもしれない。

そう思って、気を付けろって言われた話を新木田君に話すと、

「えっ、やっぱりここら辺で噂になっているんですね。」と眉根を寄せる。

「大丈夫よ私はそんな朝早く起きて、体操するなんて出来ないから、そこの体操には行かないよ。」とカラカラと笑うと、

あははと新木田君も、

「確かに、行けないですね。」と相槌を打つので、おばさん丸出しでバシッと腕を叩いてやった。

その日はそれで終わったけれど、この話には続きがあって、あの聡明な粕谷夫人が、どうやらその怪しげな糸に絡みつかれているかもしれないと、粕谷さんのご主人とゴミの集積所で会った時に相談を受けたのだ。

どうも近頃料理教室を開いてくれないと思ったら、そんな会に顔を出していたのか。

どうしたら、夫人の気持ちを傷つけずに絡みついた糸を切り離してあげられるだろう。正面からそれも家族から駄目と言われると返って頑なになるのが世の常だ。

こんな時こそ、先人の意見を聞こうと、キャプテンとチーさんの顔が浮かぶ。

スイートポテトの作り方を教わるって口実で、招いてそのままお茶会を開くのはどうだろう。

まずは、チーさん達を呼んで話を聞いてもらおうと、スマホを手に取る。あの2人なら、LINEより電話が早いだろうと電話をかける。

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