第12話
栽培→料理
料理をするのは好きだ。材料を探しながら何が出来きるか想像するのも楽しい。
特に誰かに食べさせる目的が有ると美味しいと言ってほしくて張り切ってしまう。相手の好みに合わせたりはしないんだけど。
自分が美味しいと思えるものを共有してほしいのかもしれない。美味しいは人それぞれだから。
さっきも、お隣の新木田君が庭で蹲っているので心配して行ってみると、特に熱中症ってわけでも無く、いつものように深く自分の思考に没入しているだけだったから、昼食に誘ってみた。
昨日は久しぶりに友達と映画を観に日比谷まで出たので、帰りについついパンを山ほど買って来てしまった。それを消化するのを手伝って貰おうという魂胆もあったので、誘いに乗ってくれたから嬉しくなってサンドイッチを山盛り作った。
プチメックのプロバンス風チキンサンドとまではいかなったけど、バジルソースを効かせたチキンハムのサンドとジャン・フランソワの食パンで作ると格別になるタマゴサンドを作る。
卵は半熟程度にすると卵自体コクが出て美味しい。
そして昨日会った薫は、今は千葉に住んでいてホイップされたピーナッツバターをお土産にくれた。千葉名産のピーナッツスプレッドはそれだけでもかなり美味しいけれど、ヌテラのチョコクリームとクルエラみたいに片側ずつに塗ると、さらに味変が楽しめて旨いのだ。美味しいものを食べる時は、罪悪感等持たずに食べるのに励む事にしているので、お腹がはち切れそうになるまで食べた。
1人だったらこんな風に3種のサンドイッチなんて作る訳もなく、新木田君様々だなぁと思いながら、彼が作ってくれたスープを飲む。
暑い時に、冷たいスープが喉に優しい。それはインスタントだけど、牛乳で伸ばしているからコクが出て美味しかった。この子はどうやったら美味しくなるかを知っているから、多分料理させたら上手になるんだろうなぁと思う。
「何で料理しないの?」そう聞くと
「えっ、した事があまり無いんですよね。」
「そうなんだ、前からずっと?」
「ええ、はい。」
「お母さんのお手伝いとかもしなかったの?」
「そうですね。してあげたら良かったんでしょうが、しなかったですね。」
「ふぅ〜ん。」
なんだか勿体無いなぁと思いつつ、作った野菜達をどうする気なのかを聞いたら、栽培にばかり気がいっていてどう食べるかまでは考えていなかったらしい。
料理してみたら、と提案すると何故か毒味係に任命されて、時折食事を共にする羽目になる。
まぁ、食卓を囲む人が居るのは悪くない。それも毎日じゃなくて、口の好みが近いなら尚更だな。それなら楽しもう。不出来だって不味くたって笑い話のネタになる。
コレはいわゆるチーさんの推奨する大家の仕事の一環に入ると言う事にしよう。
私が大昔一人暮らしをする事になった時お祖母さんが、
「これ一冊持っていたら大体大丈夫よ」とプレゼントしてくれた、「お料理一年」と言う本があったので、それを新木田君に使ってと渡しておいた。
彼は何事にも研究熱心なので、料理の事だって基本から学びたいだろうから、この本は打って付けだ。
今ではネットで何でも検索出来るけど、ネット世代では無い私などは、やっぱり手元に本が有ると落ち着く。
この本は、お米の炊き方から道具の説明まで載っていて、素材別に下拵えから料理の仕方迄書いてあって、たまに見返すと案外コレを端折っていたから美味しくならなかったんだぁという発見があるので手放さず長年ずっと持っていた。
初めての毒味はいつかなと心待ちにしている時、買い出しから帰ると青い顔をしている彼がボンヤリと立ち尽くしているので、
「どうしたの?何かあった?具合でも悪い?」と声を掛ける。
「実は、」とまだ料理のりの字も試してないのに、今度の土曜日に人を招かなくてはならなくなったと言う。
そんなに青くなる必要あるのか?という疑問は言わずに、
「何人位来るわけ?」と聞いてみる。
「多分10人くらい。ちゃんと聞いておきます。」
「それで。お昼出すとか言っちゃったの?」
「わざわざ来てくれた人にお茶だけって訳にも行かないので、晴れたらバーベキューでもしないかって言ってしまったんです。バーベキューなら手間も掛からないかと思って。そうだ、庭借りてイイですか?」
「それは構わないけど。」
「すみません、事後承諾のような形になってしまって。」
「全然。」
「それで、バーベキューするには用具を買わなきゃならないので、チーさんに買うならビバでしょうかって聞いたら、用具は貸してくれるって。それでついでに肉はキャプテンが焼いてくれるようチーさんが頼んでくれるって張り切ってて。」
「オッ良いね。キャプテンのバーベキューソースは超美味いのよ。一回食べておいた方が良いよ。」
「そうなんですか。それは楽しみだな。」
「だったら何でそんな浮かない顔してるわけ?」
「あー、いやぁ他に何出そうかと。ピザとかチキンで大丈夫ですよね。」
「ここら辺でケータリングったら、ピザかケンタくらいだもんね。あはは。」
「人を自宅へ招いたりした事なかったんで、ちょっと手筈が全く思い浮かばないし、騒がしくて堀川さんにも迷惑かけちゃうかなって。」
「何言っての、大丈夫そんな事。チーさん達も来るなら私も一緒にご相伴与りますから。ねっ。」
「本当ですか。それは嬉しいな。堀川さんが居ると心強い。」
「それで、キャプテンのところに肉預けるのはいつ?」
「金曜日です。」
「じゃ金曜日買い出しに行く事にしようよ。そんなに豪華にする事は無いんでしょ?」と自分の予定を頭で確認しながら言ってみる。
「はい、全然。」と新木田君は、パッと目を輝かせて返事をした。
そして2人でちょっと足を伸ばしてコストコまで買い出しに行く事にする。
サイボクハムに肉を買いに行っても良かったけれど、まぁそんなに奢ることも無いかと、大量ならコストコだろうと思い直したのだ。コストコに向かう車の中で、明日気が進みもしないのにホームパーティーをする事になったのか経緯を聞くことができた。
世の中には色んな人がいる。いい加減これだけ生きて来たら大体のパターンは見て来た様に思っていると、こんなタイプ初めてだと驚くこともしばしばで、まだまだ人って奥深く世界は広いなと思う。
日曜日はまた、新たなタイプのご対面出来らだろうか。
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