第11話

夏の畑で


ピーマンに茄子、トマトに胡瓜に南瓜。

サツマイモの苗、里芋。

小さな畑には、夏から秋にかけての作物が綺麗に並んで豊かな気持ちになる。

ちょっと目を離すと雑草がポロポロと生えて来るので、あまり日差しが強くならないうちに、蚊と戦いながら草むしりを怠らない様にして、チーさんの指示に従って追肥や土掛けをした。


サツマイモは、肥料をやると美味しく無くなるだとか、トマトは水をやり過ぎたらダメだから雨避けの屋根を作るとか、なんとなく考えていた水を沢山あげて日光をなるべく浴びさせた方が良いという植物を育てるマニュアルが、当てはまらない作物も有るということに成る程と感心した。よく考えたら原産地の違いとかがあるわけだから当たり前なのに、何故その事に疑問すら持たなかったのだろう。

毎日作物に接しているにもかかわらず、栽培は身近な事では無いんだなぁと改めて思う。

肉や牛乳や機械だってそれぞれの作る工程の違いや難しさに思いを馳せる事は殆ど無いのかもなぁ。

だから、工場見学が流行っているのかな。


「何考えてるの⁈」

ポンと肩を叩かれて、ハッと振り向くと大家さんがニマニマして立っていた。

僕は畑の畝の間にしゃがみ込んで、雑草を左手に握り右手に鎌を持ってぼんやりしていたみたいだ。

「えっ、草刈りですよ。」

「また何やら考え込んでいたでしょ?私があっちから歩いてくる間にピクリとも動いてなかったよ。」

「あぁ、いやぁちょっと何故近頃工場見学が流行っているかの仮説を立てたんです。」

「へぇ、畑だから気づいた事なの?」

「そうですそうです。」

「じゃお昼でも食べながら聞かせてよ。もう12時回ってるし、この日差しの中帽子も被らず蹲っていたら熱中症になっちゃうからね。」

どうやら大家さんは僕が熱中症で動けなくなったのでは無いかと心配してきてくれた様だ。


テラスに続く窓を大きく開けると風がよく通って、日差しが届かないダイニングテーブルの所は結構涼しい。

そこに、堀川さんが持って来てくれたサンドイッチと僕が作ったインスタントの冷製スープを出してランチタイムにする。

まずは、大きなグラスに氷を沢山入れたレモネードをゴクゴクと飲むと、相当喉が渇いていたことに気づく。一口でグラスのレモネードをあらかた飲んでしまった。

「コレ美味しいですね。手作りですか?」と僕が聞くと

「そう去年で出来たレモンを蜂蜜漬けにしてあるからそれで作ったんだよ。」

と言ってピッチャーからおかわりをよそってくれた。

蜂蜜とレモン定番だけどやっぱり美味しい。

卵サンドをパクリと頬張ると、思わず

「うわぁ美味しい。」と唸ってしまう。

「でしょ〜昨日日比谷ミッドタウンに行ったから、ジャン・フランソワの食パン買って来たのよ。卵サンドによく合うよね〜。」

「パンでそんなに違いますか?」

「そりぁもう大違いよ。」

「へぇ〜」と会話もそこそこに卵サンドにベーコンとチキンとレタスサンド、それにピーナツバターとヌテラの2色サンドを夢中で食べてしまった。

「美味しかったです。ご馳走様でした。」

「良かった良かった。私も1人だと下手したら煎餅とかで済ましちゃう時もあるから、美味しく食べてくれるなら助かります。」とうふふと肩を持ち上げて笑う姿は、ムーミン谷の悪戯っ子ミーの様だ。

「今の、ピーナッツバターサンドは、パンの種類が違いますよね?」

「分かった?それはさ、日比谷シャンテのプチメックの食パンなのよ。」

「あぁ、前に新宿丸井に入っていた?」

「あらよく知ってるね。そうよあっちの店が無くなって暫くしてから日比谷にオープンしたのよ。プチメックのパンも大好きだし、ジャン・フランソワのパンも外せないし、日比谷に行くと買いすぎちゃって困っちゃうのよね。だからね、手伝って貰って助かりました。やっぱりパンは、冷凍とかしないでなるべく早く食べてあげた方が美味しいからね。」

それから、大家さんは少し椅子に深く掛けなおして、

「新木田君はさぁ、そうやってパンの味の違いとかも分かるし、美味しい物にも興味ありそうなのになんで料理しないの?今度野菜が出来始めたら、食べない訳にはいかないでしょ?」

「あっ、そうですね。栽培する事だけ荷物気がいってました。そうだ、そうですよね。どうしようかな?」

「もちろん自分で食べたって余らせて知り合いに配る事にはなるとは思うけど、やっぱり育てた以上売るわけでも無いなら食べてあげなきゃ。そう思わない?」

「はい、勿論食べるつもりは有りました。割と楽しみにしていたんですよコレでも。でも、そうかぁ料理しなきゃサラダくらいでしか食べられないですよね。参ったなぁ。」

「別に参る事ないじゃ無い、簡単手抜き料理ってのも世間じゃ流行りだし、ネット検索したら幾らでも出てくるでしょ?やってごらん案外君みたいな子はハマると思うよ。」

「子って…そうですかね。じゃあ堀川さん試食付き合ってくれますか?味は保証しないですけど。」

「えーっ毒味係?あはは面白いから時間が合う時はお付き合い致しましょう。評価は厳しめでいきまっせ。」と請け合ってくれる。

そうだ、食べてくれる人がいてこそ料理をする気になるのかもしれない、さっき堀川さんも言っていたじゃ無いか、1人だとお煎餅で済ませちゃうって。毒味係でも居てくれたら作る気が起こりそうだ。


と、こんな流れで僕達は、時折食事を共にすることになった。

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