第14話 忙殺に抗い

 繁忙期、という言葉を私はよく口にするが、忙しくなると酒を止めようとするのが酒飲みであり、そのような中でも飲む時間を大切にするのが呑兵衛のんべえである。

 そのため書く時間を削ってしまい、長期間投稿が途絶えてしまったのだが、それを悪く思えぬ私は物書きとしては二流と言うべきだろう。

 となれば呑兵衛としての一流を目指していくより他にないのだが、投稿サイトでそれを言うのはいかがなものか。

 いずれにせよ、繁忙が少し緩んだ以上は呑兵衛としての在り方を書き上げていくつもりであるが、それもまた酒を優先してのことと思っていただければ幸いである。


 仕事が忙しくなると、流石の呑兵衛も酒に割く心を抑える必要に迫られるのだが、だからといって全く飲まぬようではかえって精神こころに悪い。

 流石に量を抑えても酒が抜けぬ時間しかない時にはどうしようもないが、ある程度の時間を確保できれば飲酒量を抑え、蒸留酒を中心に組み立てる。

 ここで長年の経験がものをいうのだが、自分の飲酒量と酒が抜けるまでの時間をある程度まで種類ごとに呑兵衛は把握している。

 そこから限度量を設定し、ありがたくいただく。

 この時、飲む時間というのが非常に惜しみ深いものとなるのだが、だからといって時間をかけすぎては翌朝に響く。

 世知辛せちがれぇやとぼやきながら、精一杯の余暇を味わい尽くすのにはもう慣れっこになってしまった。


 忙しい時期ともなればさかなも時間をかけて準備するわけにはいかなくなる。

 そこでやり玉に上がるのはコンビニやスーパーなどの総菜などであるが、あまりに続くと何かが枯れていくのを感じられるようになってしまう。

 本来は愉しいはずの晩酌の時間から潤いが失われ、何のために飲んでいるのか分からなくなる瞬間……思い出すだけで背筋の凍る思いがするというものだ。

 その先を見ようとすれば、彼岸の景色に至るのかもしれないが、あるいは呑兵衛に至らずに超えてしまった者もあるのかもしれない。


 このような時、どうしても手間という二文字が頭をよぎって――過る余裕さえないかもしれない――そのままにしてしまいがちとなるが、敢えて何か肴をこさえるべきである。

 湯豆腐でも、たぬき奴でも、キムチ奴でもよい。

 目玉焼きでも、ゆで卵でもよい。

 大切なことは「いつもの味」から舌を離して「馴染なじみの味」に近づけることである。

 単純に味を変えるだけではないかと言われてしまいそうであるが、試してみると調味料などで味を変えるだけではこの独特のを変えることはできない。

 他にはスナック菓子に手を出すという方法もあるが、これは本当の緊急回避用と言えよう。


 外食という選択肢もあることにはあるのだが、営業時間などの兼ね合いで難しいことがあり、チェーンのみとなれば総菜と変わらなくなってしまう。

 それでも、馴染みの店に行けるようであれば少しの時間でも顔を出してみた方が良い。

 味については店によって異なるため言及を避けるが、雰囲気を変えるというのはそれだけで酒肴の潤いを変え、景色の彩を変える。

 忙中に閑ありという言葉もあるが、呑兵衛こそこの金言を大切にすべきであろう。


 また、飲む際に見るものも大切になる。

 どうしても惰性でテレビを流すか、動画サイトを見るかになってしまいがちっであるが、敢えてそれをいつもと違うものにするとよい。

 音楽のみやラジオにしてみるのも良い。

 あくまでも晩酌を充実させることが目的であれば、いつもと違うというのはなかなかに刺激的だ。


 最後に、こうした繁忙期の合間に作る肴を紹介したい。

 いずれ動画にする可能性もあるが、今はその余裕がないため丁度良いだろう。

 一つ目は、ポテトとコールスローのカレーサブジである。

 コンビニなどで売られているキャベツとフライドポテトにベーコンか刻んだソーセージを合わせてカレー粉で炒めたものである。

 単純なカレーライスでは味が濃すぎるという時に、ちょうど良い。


 もう一つは、たぬきの温奴である。

 麺つゆと豆腐を耐熱容器に入って温め、これに天かすと青のりと温泉卵を盛り付ける。

 単純ながらあまり見ない変化球であるが、ある程度の酒には合うのではなかろうか。

 もう少し落ち着いたところで作ってみたいものである。

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