第13話 旅館と酒
私の一人旅は行く当てもないものであり、故に泊るところといえばビジネスホテルやインターネットカフェが中心となる。
それはそれで愉しいのだが、時にはゆとりを持って動き、旅館でゆったりと過ごすこともある。
二十代までは動くことに集中したものであるが、三十路に入り落ち着くという言葉を覚えたのかもしれない。
いや、正しくは相棒たるデミオと共に行く場合、道中は禁酒が求められるため
日が傾くまでは道中の甘味などを
そして、宿に着いてからは一切、車には乗らぬ。
一滴でも酒が入っていようものならとても運転できるような判断力が呑兵衛にあるはずもなく、その可能性から除く方がよい。
さて、旅館に荷を下ろしてからすぐに飲むこともあるが、まずは近くを散策する。
近くの店を冷やかしながら、合間にいくつか酒と肴を買い込むのだ。
気になった店で一杯ひっかけてもいいのだが、あまりに飲み過ぎると風呂を愉しめぬため控えることが多い。
何に力点を置いて何を切り捨てるのか、それを明確にすれば問題なし――と言いたいところだが、飲み始めてしまえば呑兵衛の思考力など当てにならぬ。
ほろよいともなればもうなし崩し的に酔いの沼に浸かってしまい、いつもの酒と同じになってしまう。
そのような心配をするなら先に酒と
いつもの自分を脇に置くのが旅の最大の目的である以上、
小一時間ほど街歩きを楽しんでから宿に戻り、夕食を待つこととなるのだが、その合間に私は風呂を済ませてしまう。
普段はあまり気にせぬのだが、汗や
加えて、洋服という身体に寄り添うものよりも、柔らかに包むような浴衣でいただく方が
そうした身支度をして夕食と対するのだが、どうしても旅館では日没なるやならぬやの時間帯でいただくこととなるため、常より少々早くなってしまう。
そこで胃を開くためビールで
二杯目からは好きに飲み進めていくのだが、ここはおよそ地酒をいただいてしまう。
それも、置いてあれば早々に四合瓶を開ける。
一人旅でこれをやるのは珍しいのか、旅館の方が目を丸くされることもあるのだが……。
他所の話でも書いたことがあるが、以前、大分の旅館で四合瓶を頼んだところ出されたのはグラスであった。
私も注文の仕方が悪かったのであろうが、確認したところやはりグラスとなっていたため追加で四合瓶を頼んで心配されたものだ。
「押し売りしちゃった」
大丈夫ですよと
話が
部屋に露天風呂など付いていようものなら、そこで買い求めた酒を開けて長風呂を少しの酒と愉しむ。
ここで注意が必要であるのは、飲み過ぎである。
風呂に入っての酒は酔いの回りが早く、身体が温まるのと
実際、学生時代に研究室の旅行でそれをやった際には、酷い酔いで足腰がまともに立たなくなるところであった。
それでも止められぬのはその解放感であり、豊かな時間であり、湯と酒の調和である。
部屋に風呂がなければそれを湯上りに回すのだが、この前にしっかりと水を飲んでから長湯をしていれば、十分に愉しい。
そして、晩酌。
十一時を前に空き始めた小腹を宥めるのだが、乾き物や瓶詰などをちょいと摘まんで息を吐く時の幸せは何に変えられるだろうか。
このような時に筆を執るとよく進むのだが、それだけ解されているということだろう。
ちょいと足りぬ時は、ビールの小瓶を一つやれば良い夢が見られる。
翌朝、酒が抜けたところで朝食をいただき、ゆっくりと宿を発つ。
帰りに地酒の一つでも買おうかと思案しながら。
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