第2話 飲み屋の定義
酒と肴を論じると言ったはいいものの、その前に前提条件を幾つか並べる必要がある。
数学のように体系が確立されていない中で話そうとすると、どうしてもユークリッドのように様々な定義や定理を確かめねばならないのだ。
いや、
これで辞書を作ろうなどとは思っておらず、酒を飲む時間が惜しい私などは、そうした作業は国語の先生方に任せたい。
話が逸れてしまったが、私は飲み屋を以下のように定義している。
「中で酒を飲むように作られた店」
ひどく単純な文言にしているが、これだけでは分かりにくいため具体例を挙げていきたい。
まず、最も単純なのは居酒屋であり、飲み屋の代表選手と言っても過言ではない。
酒に合う肴を並べて、様々な酒をいただけるというのは涅槃に入ってもおかしくないほどの世界である。
おそらくこれに、バーなどの酒を専門に出す店やキャバクラやホストクラブのように接待を伴う飲食店を加えたものが、狭義の飲食店になるのではなかろうか。
定食屋も酒が置いてあれば飲み屋になる。
生姜焼き定食を一つ頼み、ビールの中ビンの栓を開けてお冷を入れるのと同じコップに注ぎ、ぐうっと飲み干すのは何とも豪快で快い。
居酒屋では疑問手になりがちのご飯と味噌汁もここでは酒の友になってしまい、お湯割りの米焼酎とタレの染みたご飯をやるのは呑兵衛らしい
平日の昼間にふらっと立ち寄って、林立するスーツの中でこれをやるのは止められない。
蕎麦
しかし、私は
呑兵衛には「ヌキ」を頼むのがちょいと敷居が高くてですね……。
牛丼屋も酒を出す以上は飲み屋であり、牛皿とお新香でビールなどを流し込むのはたまらない。
店によっては酒を出す時間が短いのが玉に
喫茶店も、古き良き
あくまでもコーヒーや紅茶を主役とする店ではあるが、だからこそ出てきたビールの小ビンがいじらしい。
これにナッツや豆菓子などが付けば、それだけで休日の昼間が幸せに満ちる。
静かに誰からも妨げられることなく酒を楽しめるというのは贅沢だが、傍から見れば酒にだらしのない人間でしかない。
こうしてみていくと、世にあるほとんどの店が飲み屋にあたりそうではある。
とはいえ、わざわざ定義をした以上、当てはまらない店もあるのだが、それを今度は見ていきたい。
まずは、酒を置いていない飲食店が除外されるのは当然である。
代表的なもので言えば、多くのハンバーガーチェーンやケーキ屋などがあるが、うどん屋がこれに続くように感じている。
蕎麦と同じ
酒への意地汚さを忘れさせる結界でも張っているのだろうかと疑いたくもなるが、個人のうどんを主とするお店で飲むことにはどこか違和感があるようだ。
フードコートもまた飲み屋ではない。
ファミレスと大きな違いがないようにも思えるが、店という空間の外でいただく以上はどこかよそよそしさを感じてしまう。
同じ理由で駅の立ち食い蕎麦なども飲み屋ではないと考えているが、こちらでは酒を飲む。
単に酒が飲めるというだけが飲み屋の条件ではない。
後はコンビニやスーパーも飲み屋とは見なしていない。
小売店だから当たり前なのかもしれないが、イートインなどで酒を飲めたとしても飲む気にはなれないというのがその理由だ。
それくらいであれば、まだ堂々と道を歩きながら飲んだ方が良いと思うのだが、それはそれで危ない考えである。
そして、屋台は「飲みの場」ではあっても「飲み屋」ではない。
居心地の良さや持て成しは好ましいのだが、飲み屋とはまた一線を画すのではなかろうか。
寒風吹く中で身を寄せ合うようにして熱燗とおでんで
さて、このような定義に従って、今後は飲み屋という言葉を使っていくが、近頃では飲み屋街そのものを飲み屋と勘違いしている者もいるらしい。
大人数で集まり、空き店舗の前で酒盛りをする姿も見られるが、これは私の飲み屋の定義には相容れぬ。
楽しければよし、ではないのだ。
呑兵衛は酒と肴と、そして、飲み屋によって支えられているのだから。
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