第7話 そりゃもう、焦りましたけどね……。

 

 

 あわわ……。そりゃ寝てるところに大量の針でツンツンされたら、誰だって嫌がるよ! 私だったらキレる。


 ええと、声を乗せる……こうかな?


『(あ~、聞こえますか? 先程は無知とはいえ大変な失礼を。そちらを起こすつもりは無かったんです!)』


『ん? ……其方そなた、渡り人かの? それにしては妾にちかしいな。………泉に寄ってくれぬか? 直接水に触れていれば尚良い』


 さらっと重要な事を言われた気もするけど、とりあえずは先方の指示に従って泉の側へ。


 さっき自分の姿を見るために覗き込んだ場所へ向かい、そろりと右前足を泉の水に浸ける。すると、ビリっと電流のような衝撃が全身を――


『む……繋がったか。もう泉からは離れて良いぞ』


 ……何かが切り替わるように一瞬だけ意識が落ちた。と思ったら、泉の真上に浮かび上がる巨大な真っ白い龍ががががががが。


『どうしたのじゃ? ……妾の姿に似た者は其方の国にも伝わっておるはずじゃが』


 なぜそんな事を知っているのか? という疑問を口にする前に、答えが自分の中で解かってしまっているという奇妙な感覚。


 彼女は私の……


『もう判っておろうが、其方は妾の残滓から生み出された分身にして只唯一の眷属。 ……この世界の神が妾に断りも無く勝手にやったというのが癪に障るがのう』


 そうなのだ。


 私の目の前にある彼女はかつての姿。主従の紐付けが行われた事により便宜上生み出された幻影ゴーストであって、実体はそこには存在していない。


 彼女の肉体は既に失われて久しく、大地と一体化し命の息吹を根幹から支える龍脈の核となって、この場所へと死してなお縛られ続けている。


 私はそんな彼女の僅かに残った肉体の記憶や固有の生命エネルギーを寄せ集め、この泉に漂う濃密な聖なる気を纏って形作られた生まれ変わり。


 始まりにして唯一の聖龍、その正当なる後継者なんである。


 まぁ、私は龍じゃなくて見た目が猫なんですけどね……。

 

 

 

 

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