第2話 去る記憶と仮定。
慎重に来た道を戻り、泉から少し離れたところにある木の根元にあった窪みに隠れるようにして収まる。まだ幼いであろう私では、予期せぬ襲撃に対処できないからね。死ぬ可能性を僅かでも減らしておきたい。
私の名前は…………思い出せない。一応女だったはず。今世ではどっちなんだろう?
特に頭が良いわけでも無かったし、これといった目標も見つけられなかったから、高校は市内の公立へ、大学は実家から電車で通える範囲の私立大に進学した。
それから特に何事もなく大学を卒業し、地元の食品製造会社に事務職で就職した……ところまでは覚えている。そこから先は記憶がない。
ということは、えらく短い人生だったのね。両親には申し訳ない結果だったけれど、私の上には兄と姉がいて兄は結婚していたから、孫の顔は見られているだろうと無理矢理にでも納得しておこう。
で、現在に至ると。………うん、何も分からないし解決もしてないわ。
確かなのは、私は前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまったという事。しかも猫っぽい生き物にだ。
猫と断定できないのには、いくつか理由がある。
ひとつ、もし普通の猫ならば近くに親猫や同じタイミングで生まれただろう兄弟姉妹がいる筈だ。何かに襲われたのだとしても、私だけが生き残る可能性は低いし、どこかに食い散らかされた残骸や血などの痕跡が残っているだろう。
ふたつ、私がいた場所。あまり遠くまで動ける状態ではない私がここにいるというのは少し無理がある。誰かが捨てたにしたってこんな森の中の泉の横には置かないだろうし、それらしいカゴや箱、布のような物がない。同じく猫が子供を育てる場所としても適さない。様々な生物、つまりは天敵が水を飲みに寄って来るであろうこの空間を、野生の猫が選ぶとは思えない。
みっつ、私自身。私が普通の猫ならば、こんな生まれたばかりの状態でこのような思考ができるだろうか。いくら前世の記憶があったとしても、猫の脳の割合は人間に比べて遥かに小さい。その中に短かったとはいえ20数年分の記憶の断片が入るとは思えないし、そもそも脳自体が未発達なのだ。
……前世の記憶持ちという超常現象に科学的な常識は当てはめられないんじゃないの? というツッコミは、もちろん却下の方向でお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。