第19話 二人の時間が欲しくなった
「びっくりしたよ。まさか私と先生を勘違いして話してるなんて」
「びっくりしたはこっちのセリフだ。先に帰っててくれって言ったんだからまさか蓮見が戻ってくるとは思わないだろ?」
掃除は一人でやっておくから帰れと言ったのに、蓮見は教室へと戻ってきた。
しかも蓮見一人で戻ってきたので三鼓は待たせているのだろう。
何かどうしても持って帰らなければならない忘れ物でもしたのだろうか。
「忘れ物でもなんでも戻ってくる可能性なんていくらでもあるでしょ」
「何か忘れ物したのか? 教室にそれらしいものは無かったけど」
「そ、それはその……」
忘れ物かと訊いてすぐにイエスと答えなかったからには何かしら他の理由があるのだろう。
しかし、しばらく返答を待っても蓮見はもじもじして教室へと戻ってきた理由を言おうか言わまいか逡巡している様子。
「どうした? 三鼓も待ってるだろうし、早く言って早く帰ったほうがいいんじゃないのか?」
「そうなんだけど……」
「体調でも悪いか?」
「いや、そうじゃなくてね……?」
蓮見は否定したが、なぜか顔も真っ赤にしているし、熱でもあるのではないだろうか。
「嘘つくなよ。顔が真っ赤だぞ」
そう言って俺は蓮見の額に手を当てる。
「ひゃっ⁉︎ ちょ、ちょっと⁉︎」
「あれ、確かにそこまで熱くはないな」
「だから言ってるでしょうが‼︎ レディーの額にそう軽々しく触れるでない‼︎」
「なんか喋り方おかしくなってるけど……。それはまあすまん」
慌てている様子の蓮見だが、結局なぜ教室に戻ってきたのだろうか。
「あ、あのさ。恋愛相談なんだけど」
「……は? 今から?」
先程まで三鼓と雑談していた時には相談なんてしてこなかったのに、わざわざ戻ってきてまで相談したいことがあるのか?
「すぐ終わるから‼︎」
「まあいいけど。三鼓待たせてるんだから早く終わらせろよ」
「う、うん。あのね? 好きな人と急に二人でいる時間が減ったらどうしたらいいと思う?」
「何か特別な理由があるわけじゃないなら蓮見から誘ったらいいんじゃないか? まあ急に誘われなくなったんだったら嫌われてる可能性もあるかもだけど」
「そ、そっかぁ……。そうだよね。じゃあ私戻るね」
俺のアドバイスを聞いた蓮見は落ち込んだ様子で教室から出て行こうとする。
嫌われてるかもって言ったのがまずかったか?
でもそれだけでそこまで明らかに落ち込んだりするか……?
--まさか?
「な、なぁ蓮見」
「何?」
「今度二人で遊ばないか?」
僕の言葉を聞いた蓮見は一度俯いてからこちらを向いた。
「……。別に旭日君と二人で遊びたいわけじゃないけど……。しょうがないから遊んであげるねっ」
「しょうがないってお前な……」
「ほら、掃除終わったんならもう帰るよ‼︎」
「はいはい」
一度俯いてこちらを向いた時にはもう蓮見の表情は晴れ渡っていた。
こうして僕たちは久しぶりに二人で会う約束をして帰宅したのだった。
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