第11話 二番目を意識しはじめた

「旭日君、今からまた相談したいんだけど、いつもの空き教室でいい?」

「あ、あの……。ごめん、俺用事あるから!」


 そういって俺は恋愛相談をしたいと言ってきた蓮見を残して学校を飛び出し、近くの公園に置かれていたベンチに座った。


 いや、やばい、やばいぞ俺。


 完全に蓮見のことを意識してしまっている。

 会話をするのはおろか目を合わせることすら難しくなってしまった。


 恋愛マスターとして数多の生徒から相談を受ける俺が、恋愛相談をしてきた女子をまさか好きになってしまうとは……不覚。


 三鼓の時は三鼓のことを最初から好きだったので、恋愛相談をしてきたから三鼓を好きになったのではない。


「ねぇ、用事があるんじゃなかったの?」

「は、蓮見⁉︎」


 ベンチで俯きながら蓮見のことを考えていると、しゃがみ込んだ蓮見が下から覗き込むようにして声をかけてきた。


「な、なんでここに⁉︎」

「なんでも何もこっち私の帰り道だし」

「そ、そっか……」

「それで、用事はどうしたの?」

「あ、あの、母さんに買い物頼まれてたんだけど、結局自分で買いに行ったみたいでさ。やることなくなったから座ってた」

「ふーん。そうなんだ」


 とりあえず怪しまれている様子が無いのは安心だが、蓮見が来てしまった。


 話すことは愚か目も合わせられない今の状況で、二人きりになるのはまずい‼︎ まずすぎる‼︎


「ねぇ、好きな人に避けられてる時ってどうしたらいいと思う?」


 蓮見の襲来に焦っていた俺だが、相談の内容を聞いて思わず食い付いてしまう。


「え? 避けられてる? 何かやらかしたのか?」

「何もやらかした記憶はないんだよね〜。だから、そういう時はどうすればいいの?」

「記憶違いでもとりあえず謝る。これが鉄則だな。まあ男子が女子に謝罪する場合は、理由もわからないのに謝らないでって怒られるパターンがあるから気を付けないといけないんだが……」

「そっか……。ねぇ、私の好きな人とは全く関係ないんだけど、旭日君今私のこと避けてるでしょ」

「は、はい⁉︎」


 勘付かれてはいないと思っていたが、俺が蓮見を避けていることには気付かれていたようだ。


「何かしたんだったらごめんね? これからも相談乗ってほしいし、仲直りしたいんだけど」


 違う、違うんだ蓮見。

 怒ってるんじゃなくてむしろ好きになってるんだ……。


「あ、いや、別にあの怒ってる訳ではなくて……」

「避けてるってところは否定しないんだ」

「ゔっ……それは……」


 逃げ場がなくなってしまった俺は最終手段、嘘をつくことにした。


「昨日餃子食ったから、口臭いかなと思って」

「……へ? 何それそんなこと?」


 蓮見が嫌いになったわけではないが蓮見のことを避けていた理由を急いで考えたが、ロクな案は思い浮かばず俺は自分の口が臭いからだと言った。

 

「そんなこととはなんだ! ニンニク食べた次の日は本当に口臭いからな⁉︎ 気づいてない奴も多いけど、俺はニンニクの匂い分かるからいっつも不快な思いしてるんだよ!」

「ははっ。まぁ良かったよ。怒ってたんじゃなくて」

「ああ。別に怒るようなことはされてないしな」

「ちょっと、臭うから離れてくれない?」

「今そんなことって言った奴が言っていいセリフじゃないだろそれ⁉︎」

「ふははっ。それもそうかもね〜」


 俺のことをおちょくる蓮見に腹を立てながらも、いつの間にか蓮見と普通に会話ができるようになっていたことを不思議に感じていた。

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