第10話 二番目に恋をした

 俺が笑顔を見せたことに安堵したのか、先程まで引き締まっていた蓮見の表情は若干緩んでいるような気がする。


 俺に表情が変化していることを気付かれてしまう程、俺のことを元気付けるために必死になってくれていたのだろう。


「俺のこと励まそうとしてくれたのか?」

「んーまあそうなるかな。旭日君を励ましたいって気持ちもあったし、それと同じくらい謝罪的な意味も含まれてるけどね。私の友達が迷惑かけてごめんねーって」


 俺が予想した通り、蓮見は自分のデートの予行演習を装って、俺を励まそうとしてくれていた。


 三鼓は目の前の恋に集中しすぎて周りが見えなくなっており、俺が三鼓に好意を寄せていることに気付きはしなかった。


 悪意があったわけではないとはいえ、俺の気持ちに気付いていなかった三鼓が俺の精神を削り取っていったのは紛うことなき事実である。


 そしてそれに気付いたのは三鼓本人ではなく、その親友である蓮見だったのだ。


 その上、わざわざそこまでする必要なんてないのに三鼓の尻拭いをするかの如く俺のことを励ましてくれたが、俺は蓮見に三鼓の代わりに謝罪する必要なんてないと伝えた。


「蓮見が三鼓の分まで謝罪する必要はないけどな」

「まあそうなんだけどね。くるみって集中したら目の前のことしか見えなくなるタイプだから、私が代わりに謝るってことも結構あるんだよ」

「そうなのか」

「うん。まあ謝罪的な意味合いよりも、旭日君を元気付けたいって思いの方が強いんだけどね」

「そ、そりゃどうも」

「あ、でも一応本当に今日はデートの予行演習もかねてるんだから。手は抜かないでよね」

「はいはい。善処するよ……ってちょ、な、何すんだよ急に--」

「大変だったね」

「--っ」


 蓮見は突然俺の頭を撫で、言葉をかけてきた。


 蓮見から言葉をかけられた瞬間、俺の目頭は一瞬にして熱くなる。


 俺が味わったあまりにも辛い失恋も、失恋をすると分かっていながら好きな人を応援した頑張りも、誰も分かってくれないと、誰も理解しようとしてくれないと思っていた。


 しかし、今まさに全てを認められたような気がして、僕は情けなく大量の涙を流してしまった。


「こらこらー。男の子だろー? そんなみっともなく泣くなよー」

「だっでぇ、だっでぇぇぇぇぇええ」

「旭日君はえらいよ。好きな人の恋を応援するなんて中々できることじゃないもん。私はそんな優しい旭日君が好きだけどね」

「……え?」

「ほら、とりあえず涙を拭いて」

「あ゛、あ゛ぁ」


 そう言って紙ナプキンを渡された俺は涙と鼻水を拭いた。


「ほら、泣き終わったらデートの続きするよ」


 そう言いながら席を立った蓮見は、僕に満面の笑顔を見せてくる。

 その笑顔が、ただ面白くて笑っているのでは無く、元気がない僕を少しでも元気付けようとしてくらた結果の笑顔であることを僕はもう知っている。


 予想外に優しく相手のことを思いやれる蓮見のことを、僕は不覚にも好きになってしまっていた。

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