第9話 二番目が優しすぎた

「ラブコメって初めて見たけど結構面白いんだね」


 そういいながら大きなイチゴを頬張る蓮見。


 俺たちは映画を見終えた後でカフェに入りケーキを食していた。


「いやラブコメ見るの初めてだったのかよ。なのにあの映画で良かったのか?」

「あ、その、えーっと、うん。ラブコメには元々興味あってさ。一度くらいは見てみたいと思ってたから」

「ならいいけど……」


 歯切れの悪い回答に若干の疑問を抱きはしたものの、この店のモンブランが美味すぎてそんな疑問は気にならなかった。


「でもこの感じならデートも上手くできそうだよ。ありがとねっ。旭日君」

「予行演習って言いながらなんだかんだ俺も楽しんでるし、お礼なんていいよ。むしろこっちがお礼をいいたいくらいだ」

「旭日君って性格いいよね。彼女とかいないの?」

「ぶふっ。い、今はいないかな……」


 唐突な質問に咳き込みそうになったものの、恋愛マスターとしての威厳を保つために嘘をついた。


 今は、どころか産まれてからずっと彼女なんていたことがない。


 しかし、恋愛マスターと呼ばれてしまっている手前、恋愛経験が無いのは流石に問題があるので嘘をついてしまった。


「そうなんだ。旭日君優しいから、取っ替え引っ替えやってるのかと思ってた」

「え⁉︎ あ、ま、まあそうだな。そうかもな」

「旭日君てさ、くるみのこと好きだったよね」


 蓮見の口から放たれた言葉に俺は自分の耳を疑った。


 え、な、なんで俺が三鼓のことを好きだってバレてるんだ⁉︎

 三鼓に好意を抱いていたことは誰にも話していないはずだ。


「ソ、ソンナコトナイヨ……?」

「いや分かりやすすぎるでしょ」

「な、なんで分かったんだよ‼︎ 俺が三鼓のことが好きだって」

「くるみが旭日君に恋愛相談してるところ見て、旭日君がくるみに好意を寄せてるっていうのはすぐ分かったよ」


 恐るべし女子の観察力……。


 実際失恋したのは本当だしこれ以上嘘を並べても蓮見は信用してくれないだろう。


「まさか気付かれてたとはな……」

「簡単に気付いたよ? だからくるみには旭日君に恋愛相談しないように間接的に言ってたんだけどね。くるみ、そのへん察しが悪いから中々やめようとしなくてさ。それどころか旭日君は頼りになるからってずっと相談しようとして……」


 蓮見は俺が三鼓に好意を寄せていることに気付き、俺から三鼓を遠ざけようとしてくれていたのか。


 好意を寄せている相手の恋愛相談になるのは正直かなり厳しかったので、結果それが叶わなかったのだとしても、そのようにして動いてくれた蓮見の優しさは嬉しかった。


「そうだったのか。ありがとな」

「いやいや、結局くるみは旭日君に相談を続けてたし、他の男子と付き合っちゃったし、私なんてなんの役にも立ててないよ」

「その気持ちが嬉しいよ」

「……ふふ。やっと笑ってくれた」

「……え?」

「元気出たみたいでよかったよ」


 その瞬間、俺は今日のデートが予行演習なんてものではないことを悟った。

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