第12話 付き合うのが嫌になった

「ねぇちょっと、私の話聞いてる?」

「え、何? なんか言った? 全然聞こえなかったんだけど」


 私、三鼓くるみは彼氏の家にお邪魔するという心踊るイベントの真っ最中なのだが、気分は最悪。


 私が彼氏である片桐先輩の家に到着した途端、片桐先輩が私のことを無視してゲームを始めたからだ。


 片桐先輩がゲームをするのが好きという話は以前から聞いていたが、まさか初めて彼女が家に来る大事な日に彼女が家に到着した途端ゲームを始めるとは予想していなかった。


 付き合ってからまだ1ヶ月程しか時間は経過していないが、正直に言ってしまうと私は片桐先輩のことが好きではなくなってしまっているような気がする。


 もちろん軽薄な女だとかそういうことではなく、それなりに理由はある。


 雨の日に相合傘をして二人で帰ろうと思ったら傘を私に持たせてきたりとか、スタパのドリンクを私に奢らせてきたりとか、挙げ句の果てには私と付き合ってから別の女の子と二人で遊びに行っていたという話も聞いている。


 勝手に理想の先輩を思い描いていたのは私が悪いけど、私が思い描いていた片桐先輩とは180度違う姿に幻滅してしまっていた。


「……なんでもない」

「あっそ」


 私が話しかけてもヘッドフォンすら外さずゲームの音に集中する始末。


 はぁ、こんなことなら旭日君と付き合いたかったな……。


 --って何考えてるの私⁉︎ ちゃんと片桐先輩のことが好きになって告白したはずでしょ。


 それなら今こうして二人で過ごしている時間に別の男の子のことを考えるなんてあってはならない。


 というか私、なんで今付き合いたい男の子を想像した時に旭日君の名前を言ったんだろ。


 別に旭日君に対して好きという感情は抱いていなかったが、自分にとって何の得にもならないのに恋愛相談にのってくれている旭日君は間違いなく優しかった。


 自分の悩みでもない他人の悩みなのに親身になって相談に乗ってくれて、アドバイスをくれて、更にはこうして好きだった人と付き合うこともできて……。


 本当に旭日君は優しかったなぁ……。


 せっかく付き合えたのに、こんな気持ちになるなんて精一杯アドバイスしてくれた旭日君に申し訳ない。


「ねぇ、片桐先輩」

「え? なんだって?」


 やはり片桐先輩にはゲームの音で私の声はあまり届いていない。


「私のこと、本当に好き?」

「あー好き好き。好きに決まってるだろ。なに当たり前のこと聞いてきてるんだよ」

「そう……だよね。ごめんね。変なこと聞いて」


 片桐先輩の回答に、あまり納得はいかなかったもののグッと気持ちを抑えてゲームをする片桐先輩の後ろでスマホをいじっていた。

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