第5話 恋愛相談で嘘をついた

 昼休み、蓮見からまた相談に乗ってほしいと言われていた僕は早々に弁当を食べ終えて、売店でブラウンサンダーを二個購入して、いつもの空き教室へと向かった。


 空き教室に到着し、扉を開けると僕より先に到着していた蓮見が椅子の背もたれを前側にして、乗りかかるようにして座っていた。


「思ってたより早かったじゃん」

「五分前行動が基本だろ。これやるよ」

「え、何その気遣い流石恋愛マスターだね」


 自分は決して恋愛マスターではないが、誰かの相談に乗る時にこうしてブラウンサンダーを渡すと相談者も緊張がほぐれて色々な話をしてくれるようになるので、僕は毎回ブラウンサンダーを渡すようにしている。


「あ、当たり前だろ。それよりその体勢、目のやり場に困るからやめてほしいんだけど」


 背もたれを前側にして股を開き跨るようにして座っているため、スカートの中身が見えそうになっており思わず目を逸らす。


「えー、こんなので目のやり場に困る恋愛マスターなんて聞いたことないんだけど」

「俺は純情な恋愛マスターなんだよ」

「ふーん。そっかそっか」


 痛いところを突いてくる。


 恋愛マスターとは呼ばれているが、俺は付き合うどころか女子と手を繋いだことだってない程のクソ童貞なのである。

 そんな俺が蓮見の下着が見えそうになって目のやり場に困るのは当然のことなのだ。


「それで、今日何を相談したいんですか」

「料理の次は何したらいいと思う? デートに誘うのはまだちょっとハードル高いし……。逆に思い切ってキス?」

「いや恋愛に逆にとか無いから。ちゃんと順序ってもんがあるんだよ順序ってもんが」

「……まあ確かに、急にキスなんかして軽い女だと思われても嫌だしね」

「だろ」


 蓮見の場合、俺がこうやって歯止めをかけてやらないととんでも無い行動を起こしそうだな。

 三鼓はなんでも俺の言うことを聞いてくれたが、蓮見はそうはいかなさそうである。


「じゃあどうしたらいいと思う?」


 正直なところ、料理を振る舞うという行動自体がすでにかなり順序をすっ飛ばしてはいるので、蓮見は自信がないというが、デートに誘う、というのが順当だろう。


「やっぱりデートに……」

「ん? なんて言ったの? どうかした?」


 デートに誘えばいいんじゃないか、とアドバイスをしようとした俺の口は全てを言い終える前に動きを止めてしまった。


 手料理を振る舞ってもらった時に、蓮見の恋路を応援するって決めたはずなのに、それなのになぜか俺は蓮見にアドバイスをしたくないと思ってしまっていた。


 とはいえ、蓮見は意見を求めているのだから、ちゃんとアドバイスしてやらないと……。


「デートに誘いづらいなら連絡先でも聞いたらどうだ?」


 まだ三鼓の時の失恋を引きずって恋愛相談に乗るような気分じゃないのか、真面目にアドバイスしてやらないとと思っているにも関わらず、俺は蓮見に嘘のアドバイスをしてしまっていた。

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