第4話 「二番目」から手料理を振る舞われた

 俺は蓮見の自宅に招かれ、蓮見の部屋へと招き入れられていた。


 クラスで一番可愛い女子に事実上振られて、その後すぐに二番目に可愛い女子の自宅に招かれて手料理を振る舞われるってどんな状況よこれ。


 頭が混乱し、目が回りそうになっているところに料理を持った蓮見が戻ってきた。


「ちょっと待たせちゃったね」

「別に待ってないけど……ってそれ、蓮見が作ったのか?」


 前菜のカプレーゼはチーズとトマトが綺麗に並んでおり、仕上げにかけられたソースが彩りを加えている。

 メインはカルボナーラで、トロトロのソースにふわりと乗せられた半熟卵があまりに綺麗で思わず涎が出る。


「うん。普段そんなに料理なんてしないんだけどね。旭日君に料理でも作ってやれば喜ぶんじゃないかってアドバイスもらったから。練習したの」

「あのたった一言で?」

「そうだよ? だって旭日君、恋愛マスターなんでしょ?」


 キョトンとした表情で蓮見からそう告げられた僕は自分の行いを悔いた。


 いくら自分が失恋した直後だったとはいえ蓮見には何の罪も無いし、相談してくれたのであれば親身になって真剣に答えのが筋だろう。


 それなのに僕って奴は自分のことばかりで蓮見の気持ちなんて一切考えずに……。


 食前酒用のグラスくらい器が小さい自分が恥ずかしい。


「……ああそうだよ。俺は恋愛マスターだ」

「じゃあやっぱり旭日君の言うことはちゃんと聞かないとだよね。そうすればいつか好きな人に振り向いてもらえるかな?」

「百パーとは言わないけど、可能性は限りなく高いと思う」

「そっか……。じゃあ引き続きよろしく頼むね。恋愛マスターさん」

「任しとけ」


 そう言いながら口にしたトマトから感じる甘味と、ほのかな酸味が何か新しい人生が始まることを予期しているようだった。






「はぁー食った食った」


 俺は蓮見に出してもらった料理を全て平らげてお腹をさすっていた。

 あまりに美味しさに余っていたパスタをおかわりしてしまいお腹はパンパンになっている。

 

「喜んでもらえたみたいでよかった」

「この前も訊いたけどさ、こんなに頑張って練習して、誰に手料理を振る舞う予定なんだ?」

「いや、もう振る舞い終わったよ」


 もう振る舞い終わった?


 てことは俺が手料理でも作ったら喜ぶんじゃないかと言ってから今日までにすでに手料理を振る舞ったってことか?


 いや、でもそれならなんで俺は今日この場に呼ばれたのだろうか。


 百歩譲って好きな人に手料理を振る舞う前の味見と言われれば納得ができるが、すでに好きな人に手料理を振る舞い終わっているとなると、それ以外の理由が考えられない。


 というか今日で俺が蓮見にアドバイスをしてから一週間だぞ? そんな短い期間で料理を練習して好きな人に振る舞うことなんてできるのか?


 --ま、まさか⁉︎


「え、いや、それって……」

「さぁ、どういう意味だろうね〜」


 今日の料理にどのような意味が込められているか、それは本人である蓮見にしか分からない。


 ただなぜか、俺は蓮見が最初から俺に手料理を振る舞うことが目的だったような気がして、それでもその真相を蓮見本人に直接は聞けず、混乱しながら帰路についた。

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