第1話 物語の始まり
時は10年前に遡る。
彼の歳は24。名をファウスト・ハーデッド。出身不明。
彼はその日、砂漠のど真ん中にて太陽の陽がじりじりと照らし、少しばかり露出した熱くなった岩の床で、彼は腕立て伏せをしていた。
「998、999、1000……ふぅ。今日はこの辺りで良いだろう」
彼は既に暑さで方向感覚は失っており、その中で日課を作っていた。
助けは望まず、助けが来るのならその間に鍛えられるだろうと考えて。
「さて、今日の飯は……」
その時、ファウストの目から200メートル離れた先で、10人くらいの武装をした歩く人々が見える。
更にその奥で長く太く蛇のような、頭部には無数の鋭い牙を生やしたサンドワームが顔を出した。
サンドワームは人々の砂を歩く振動を感じれば、獲物を捉える。
「よし。あの蛇にしよう」
同時にファウストはサンドワームを今日の昼飯に決めた。
そうと決まれば先手必勝。ファウストは出来る限りサンドワームに気付いてもらうように、砂の地面を強く踏みつけながら一直線に猛ダッシュする。
その振動を見逃すサンドワームでは無かった。10人の武装する人々の背後へ目標を変更する。
急にターゲットが変わることに騒めく人々。そして後ろを振り向き指を指す。
こちらに向かって猛ダッシュしてくる1つの人影に。
「キィエエエエエエエッ!!」
サンドワームは人影に寄生を上げれば、すぐさま地面に潜り込み、鋭い牙で砂を掻き分けながら、まるで地面を泳ぐかのように突き進む。
「うおおおおおぉ! 俺はこっちだあああぁ!」
同じくファウストもサンドワームに向けて叫びながら走る。
地面に潜っても尚、決して立ち止まらずに走り続けるファウストには、既に勝機が見えていた。
そしてサンドワームはファウストの真下に辿り着けば、一気に力強く外へ飛び上がり、ファウストの身体を真上上空へ吹き飛ばせば、宙に浮いたファウストを喰らおうと、全身を砂から出して大きく口を開く。
上空何十メートルも吹き飛ばされるファウスト。
しかし彼の表情は笑っていた。
「ハハハハハッ! お前らはいつになっても学ばんな! 絶・崩襲撃ぃ!」
ファウストは空中で姿勢を制御し、片足を頭上まで真っ直ぐ持ち上げ、踵落としの姿勢を作る。
その踵が狙うはサンドワームの前歯。
そうすればファウストの踵から火が噴き出す。落下中に垂直に伸びるその火は、まるで光の柱で。
ファウストはサンドワームに喰われる直前に、その踵で前歯をへし折る。
同時にばくりと口を閉じるサンドワーム。
その光景を見た10人の人々は口を合わせてこう言う。「なんて愚かな……」と。
地を這うサンドワームに向かって全力ダッシュと大声など命知らずがやることであり、振動に敏感なサンドワームに対しては自殺行為だと。これは周知のことであった。
しかし、空中でサンドワームがファウストを食べた直後だった。
全身を露出させていたサンドワームの尾から、1人の人影が飛び出し、砂塵を舞い上がらせて着地する。
「ギイャアアアアアアアッッッ!?!?」
身体を宙に浮かせ、後は砂まで自由落下するはずのサンドワームから耳をつんざく奇声が響く。
何事かとサンドワームと人影に注目する人々。
サンドワームはどしんと砂の地面に落下すれば、1人の人影の元でピクリとも動かなくなった。
「おぉお……今日は大物だな! 晩飯もこれで済ませられそうだ……!」
その一部始終を目の当たりにしていた10人の人々は、唖然として固まっていた。
何が起きたんだ。あり得ないと。目の前の光景が信じられず、思考が一時停止していた。
その中で1人。9人を引率していた者が一番早く正気を取り戻すと、ファウストに我先にと接触を試みた。
「む……あれは人か……?」
そうしてファウストはその時初めて、生きた人に気がつくのだった。
物理(拳)最強の男が行く異世界踏破 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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