第54話 木こりのようになりたい
でも、どうしてメストは一目惚れした彼の動きを見て、『今のままでは……』って危機感を募らせたのだろう?
リースタの件や魔物討伐の件で見た木こりの身のこなしを思い出したシトリンは、楽しそうな笑顔で目の前の幼馴染をからかいつつも、彼の言葉に内心では納得しつつも彼が危機感を募らせたことに疑問を抱いていた。
そんな彼の疑問に答えるように、メストは危機感募らせた理由を口にした。
「そして俺は、一目惚れしたのと同時に、あいつの身のこなしが俺を含めた多くの騎士達が会得しているものとは明らかに異なるものだと気づいたんだ」
「確かに、魔物と正面から得物で仕留めるか魔法で仕留めるかを前提にしている僕たち騎士の動きとは明らか異なるね」
僕たち騎士は、防御魔法が付与された鎧を身につけて戦うから、それを前提として戦う術を騎士学校で散々叩き込まれた。
騎士学校で身につけたものを口にしたシトリンに、メストは小さく眉を顰めた。
「そう。だから俺は、彼と剣を交えて……願わくば、弟子入りして彼なりの攻撃の躱し方や剣を使った攻撃の受け止めた方や受け流した方を身につけたいんだ」
「でも、僕たち騎士は鎧を身につけて戦うから、彼のような軽やか身のこなしは出来ないって……」
「あぁ、分かっている。それでも……」
シトリンの言葉を遮ったメストは。力を入れていた手をそっと緩めると、真剣な眼差しで対面に座っている幼馴染を見た。
「俺は、彼のように国民から頼りにされる騎士になりたい」
先程、月明かりの下で木こりに見せた真剣な表情のメストに、シトリンは一瞬目を張ると小さく笑みを浮かべた。
「騎士が平民に憧れるって、普通は逆じゃない?」
それこそ、年頃の男の子が騎士に向かって純粋無垢な笑顔を見せてさ。
いつもの柔和な笑みを見せるシトリンに、メストは僅かに口角を緩めた。
「あぁ、そうかもしれない。だが、この国……いや、王都の騎士達は子どもたちが憧れるような人物ではないからな」
「そうだね」
国民を守る騎士が、下卑た笑みをしながら平民に対して刃をむけたり、魔法を放ったりなんてしないし、そんなやつ子どもじゃなくても憧れないよね。
王都に来てから出会った騎士達の愚行を思い出したメストとシトリンは揃って苦い顔をした。
「だから俺は、少しでも彼の攻撃の躱し方や受け止め方や受け流し方を身につけて、魔物達から国民を守りたいんだ」
「なるほど、そういうことね。それなら……」
本当は、僕もメストと一緒に彼に弟子入りしたいけど、とりあえず今は……
そっと立ち上がったシトリンは対面に座っているメストの横に再び立った。
「明後日に備えて、今日と明日で体調を万全に整えないとね」
「あぁ、そうだな」
珍しく満面の笑みを浮かべる親友に、シトリンは優しく目を細めた。
珍しく本気になったメストがしたいことを最後まで見届けるとしますか。
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