第48話 任せるなんて出来ない

『報告です。魔物の群れの周辺に馬に乗った平民がいます』



 魔物の群れの近くに平民……もしかして。


 いち早く群れの後を追っていた部下から通信魔法が付与された魔道具で報告を受けたグレアは、部下の見つけた平民がメストとシトリンが会った件の人物だとあたりをつけると、すぐさま部下に命令を飛ばした。



「それでしたら、私の方で保護しますのであなた達は魔物達の討伐に死力を尽くしてください。一匹たりとも村への侵入を許してはいけませんよ」

『ハッ!』



 部下からの通信が切れたのを確認したグレアは、すぐに魔道具に魔力を流し込むと今度は後ろにいる騎士達に命令を下した。



「先に群れの後を追っていた者達が魔物の群れが発見しました。恐らく、発見された場所から村まではそう遠くないはずです。皆さん、絶対に魔物達を全滅させますよ!」

「「「「「ハッ!!!!!!」」」」



 背中から聞こえてきた頼もしい野太い声にグレアは小さく笑みを零すと、前から爆発音と騎士達の勇ましい声が聞えてきて、その手前にはレイピアを構えて木こりの格好をした平民と馬がいた。



「あの方ですね」



 見た限りでは、貴族か騎士しか持っていないレイピアや馬がいること以外は、至って普通の平民だと思いますが……


 先ほどの部下からの報告通りの人物を発見したグレアは、再び後方にいる部下たちに命令を飛ばした。



「前方に平民らしき人物を見つけました。そちらは私の方で対処しますので、あなた達は魔物の討伐に専念してください!」

「「「「「「ハッ!!!!!!」」」」」」



 命令を受けた騎士達が次々とグレアの前を走っていくと、既に魔物討伐をしていた騎士達に加勢する形で魔法を放ち、得物を振るっていた。

 そんな部下達を見届けたグレアは、強化魔法を解くと辺りを警戒しつつレイピアを構えたまま呆然と立ち尽くしている人物に声をかけた。



「そこの君、一体何をやっているのですか? 見ての通り、ここは危ないですから今すぐ離れて下さい」



 厳しい顔つきをしたグレアが銀縁の眼鏡を軽く上げながら声をかけると、彼を視界に入れた木こりが一瞬だけ目を開くと、すぐに表情を無くしてレイピアをゆっくり降ろした。



「あなたは……つい最近に村近くの駐屯地で訓練している騎士様でお間違いないでしょうか?」



『無表情のまま騎士に対して遠慮のない言葉を発する』……どうやら、この人がアルジムやリースタの件で活躍した平民で間違いなさそうですね。


 フェビルと共に目を通した報告書の中に書かれていた一文を思い出したグレアは、再び眼鏡を上げると軽く咳払いをしていつもの冷静沈着な表情をした。



「そうです。ですから、ここは私たち騎士団に任せて下さい」

「『騎士団に任せて』ですか」

「えぇ、そうです」

「それでしたら……嫌です」

「えっ?」



 怪訝な表情のグレアを一瞥した木こりは、再びレイピアを構えると視線を目の前の人物から魔物の群れに移した。



「あなた達騎士団は、ここ数年、私たち平民から搾取したりいたぶったりするだけで、騎士らしいことなんて何もしてこなかったじゃないですか」

「それは、前の騎士団長時代の話です。今の騎士団長は……」

「関係ありません」



 今の騎士団長であるフェビルへの偏見を解こうとするグレアの言葉を、聞く耳を持つこともせず容赦なく一刀両断した木こりは、足元に透明な魔力を纏わせた。



「私たち平民にとって、前の騎士団長とか今の騎士団長とか関係ありません。です」

「っ!?」



 言葉を失うグレアを他所に、木こりは纏わせていた魔力を上に向けて弾け飛ばすと体を宙に浮かせた。


 だから、私は剣を振るっているのよ。


 空中に体を浮かせた木こりは、すぐさま体勢を変えて再び足元に魔力を纏わせると、今度は地上に向かって弾け飛ばし、剣と魔法が飛び交う集団の真ん中に一直線に飛びこんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る