第47話 深夜の魔物討伐②
「ステイン、急いで魔物達の後を追って。あなたと私なら、ここから逃げだした魔物達を一掃することが出来るから」
木こりの言葉に勇気をもらったステインは、その自慢な脚力で来た道を全力で駆けて行った。
(絶対に、村の人達には手出しさせない!)
愛馬に乗って来た道を急いで戻っていた木こりは、馬上で銀色のペンダントを取り出すと自分の指を切り、ペンダントの真ん中に嵌め込まれた透明色の魔石に血を垂らして小さく呟いた。
「我が血を以って、彼が大切にしていた場所に何物も通さない強力な結界を張りたまえ」
木こりが垂らした血を吸収した魔石は赤い光を放つと、森にかかっていた結界が消え、既に村にかけられていた結界の上に更に結界がかけられた。
本当はこんなことをしたくなかった。でも……
熱と光が収まり、魔石の色が透明から赤黒い色に変わったことを確認した木こりは、ペンダントを胸元に戻すとそっと息を吐いた。
『この村は、私が育った村なのです。ですから、私にとってこの村は、あなた様と同じくらい大切な場所なのです』
私が、このリアスタ村に連れて来られて間もない頃、職を辞して第二の人生を送っていた彼は、御者台で幌馬車を引きながら優しい笑みを浮かべて隣に座っていたそう話してくれた。だから……
服の上からペンダントをぎゅっと握りしめた木こりは小さく俯くと唇をきつく閉じた。
あなたがこの村のことを大切に思っていたから、私はあなたの大切にしていた場所を守りたい……かつて、宰相だった私の父がペトロート王国の平和を守ったように。
「でも、もう誰も覚えていないことだけど」
王国の宰相としての凛々しい父の背中を思い出した木こりが、こみ上げてきた激情を必死に抑えようとしたその時、森の中を疾走していたステインが小さく嘶いた。
「いたのね」
今度こそ、一匹たりとも逃がさない。
無表情に戻った木こりが手綱を強く握り眼前の暗闇に目を向けると、前方に大小異なる魔物達の後ろ姿が見えてきた。
「ステイン、急いで回り込んで……」
群れの前に出て正面から討伐にかかろうと考えたその時、ステインの足が急に止まった。
「ステイン!?」
敵はもう間近に見えているのにどうして止まったの!?
目を丸くした木こりが慌ててステインに顔を寄せると、馬上にいる主を一瞥したステインが軽く嘶きながら首を横に振った。
ステイン、一体どうしたっていうの?
普通の馬と比べてとても賢く頼もしいステインの突然の行動に、木こりは一瞬眉を顰めた瞬間、後ろの方が急に騒がしくなった。
まさか、魔物の援軍?
異変に気づいて一瞬だけ険しい顔した木こりは、馬上から降りると愛馬を庇うように無表情で静かにレイピアを構えていた。
すると、森の奥から金属同士が擦れる音がけたたましく近づいてきた。
「この音……もしかして、鎧?」
だとしたら、あの人達が来たってこと?
レイピアを構えていた手に力を入れたその瞬間、銀色の鎧を身に纏った集団が疾風のごとく木こりの横を通り過ぎ、後ろから爆発音と勇ましい男達の声が聞えてきた。
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