木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

第46話 深夜の魔物討伐①

「見つけたのね」

　ステインに付けている馬具は、実は強力な魔力を探知する魔法陣が刻まれている魔道具であり、ステインの内包する魔力に反応して発動し、魔力を探知した場所がステインの頭の中に流れ込む仕組みになっている。

　そして、ステインは主である木こりを乗せて、その魔道具が探知した場所に向かって最短距離で走っているのだ。

　そんな頼りになる愛馬がゆっくりと立ち止まると、木こりはここまで連れてきてくれた労をねぎらうように愛馬のたてがみを一撫でして颯爽と降りた。

「連れてきてくれてありがとう、ステイン。ここから先は、私の仕事だから安全な場所まで離れていて」

　軽く嘶いたステインに小さく笑みを零した木こりは、表情をいつもの無表情に戻すと目と鼻の先にいる魔物の大群を鋭く睨みつけた。

　ここから感じ取れる魔力の数からして、随分前に現れた時より魔物の数が多いわね。正直、私1人で倒しきれるか分からない。でも……

「ここから先は、絶対に行かせない」

　魔除けの効果は付与されていないとはいえ、まやかしの結界に惑わされずここまで来たことを後悔させてやるわ。

　特別な方法で侵入してきたものに幻影を見せて、結界の外に追い出す効果が付与されている結界の中で、リアスタ村のある方角に向かって押し寄せてくる魔物達に対峙した木こりは、レイピアを静かに構えると足元に魔力を纏わせた。

「ハッ！」

　魔物達が木こりの存在に気づいたタイミングで足元に纏っていた魔力を爆散させた木こりは、魔物の群れに突進すると同時に狼型の魔物を一瞬で地面に伏せた。

「さぁ、来なさい。あなた達の相手は私よ」

　襲い掛かってきた魔物を一瞬で屠った木こりは、冷たい目をしながら周囲にいる魔物達に切っ先を向けた。すると、一匹の中型の魔物が口から炎の息を放った。

　全く、森で火魔法を放つことをしないで欲しいんだけど。

　内心で呆れつつも怯えるような表情をしない木こりは、レイピアに魔力を纏わせると目の前に迫ってきた炎を横一線で切って打ち消した。

　それを皮切りに、周囲にいた魔物達が次々と木こりに襲ってきた。

　やっと来ましたか。そう来なくちゃね。

　一瞬笑みを浮かべた木こりは、襲って来る魔物達の猛攻を冷静に一つ一つ見切ると、怯むような表情を一切見せないまま右に左にと無駄無く交わし、同時にレイピアで魔物達の急所を刺して倒していく。

　その中で時折、木こりに向かって魔物達から火や風などの属性魔法が放たれてきたが、魔力を宿したレイピアで切って打ち消していった。

　そして、魔法を撃った魔物が怯んでいる隙に足元に魔力を爆散させて一気に距離を縮めると、魔物の血で染まったレイピアで魔物の頭を貫通させた。

　やっぱり、いつもより少しだけ魔物の数が多いわね。でも、どれもこれも攻撃が単調すぎてことはたいしたことは無いみたい。

「まぁ、これも日々の鍛錬と魔法を打ち消せるこの力のお陰ね」

　魔物が死んだ時に落ちる魔石の方が多くなったタイミングで群れから少しだけ距離を取った木こりが小さく呟いていると、『木こりが逃げた』と勘違いした魔物達が３つの集団に分かれた。

　あれっ？　攻撃一辺倒だった魔物達の動きが急に変わったわね。

　一瞬眉を顰めた木こりは、レイピアを構えてまま魔物達の動きを静観していると、３つに分かれた魔物の群れの1つが木こりに向かって一斉に魔法を放ってきた。

　なるほど、一気に魔法を放てば私に隙が出来るって思ったのかしら。

「でも、それも無駄なんだけどね」

　一瞬笑みを浮かべた木こりは、すぐさまレイピアを地面に突き刺した。

「《範囲干渉》」

　レイピアを伝って地面に流れた木こりの魔力が多種多様な魔法を一瞬で打ち消すと、すぐさま剣を構えた木こりは足元で魔力を爆散させると、魔法を放ってきた魔物の群れに突進をかけて次々と倒していった。

「ふぅ、こんなものかしら」

　足元に散らばった魔石を一瞥して額に浮かんだ汗を軽く拭った木こりは、残りの２つの魔物の群れを探そうと辺りを見回した。

「あれっ？　どこにもいない」

　てっきり、魔法を放った隙に挟み撃ちで襲って来ると思ったんだけど……ちょっと待って。

　嫌な予感が頭をよぎった木こりは周囲の魔力を探ろうと静かに目を閉じようとしたその時、遠くから馬の嘶き声が微かに聞こえた。

「ステイン！」

　森の奥から走ってきたステインが落ち着かない様子で木こりの前で立ち止まった。

「あなた、さっき『安全な場所まで戻っていて』って言ったのに……って、まさか」

　ここにステインがいるってことは……

　『急いで乗って！』と言わんばかりに興奮しているステインを落ち着つかせた木こりは、急いで馬上に乗った。