第45話 魔物討伐へ!(side 平民)
時は、騎士団が魔物討伐に行く少し前に遡る。
「はぁ、今日は疲れたわね」
村長の無茶ぶりで王都の得意先に野菜達を卸した木こりは、日が傾いた頃に家路につくとそのままベッドへダイブした。
村人達が正門前に集まっているところを目にした時に、銀色の鎧しか見えなかったから、てっきり悪徳騎士様達が来たのかと思って、慌てて集団の前に出たら……
「よりにもよって来たのはあの方達だったし、来た時には村長が既に話をつけていたなんて」
というより、断りの手紙が届いていた最初から見せなさいよ。私にだけまだしも、村人達にも見せていなかったなんて。
「やっていることがあくどいのよ。あの村長」
薄暗くなった部屋で愚痴を吐いた木こりは、フカフカベッドの中で大きく溜息をつくと、のろのろと起き上がると身につけていたベレー帽とアイマスクを取ろうとした。
「あっ、いつもの鍛錬がまだだった」
この村に来てから一度も忘れることが無かった鍛錬を忘れるなんて……
「それもこれも、あの村長が無茶ぶりのせいよ。お陰で、得意先の店主の嫌そうな顔をみる羽目になったじゃない。それと……」
静かに顔を俯かせた木こりは、手にかけていたベレー帽の唾とアイマスクの端をぎゅっと握りしめた。
「あの人たちが来たせいよ」
「さて、すっかり日も傾いてしまったから、今日は珍しく湖畔近くで鍛錬でもして……っ!」
ゆっくりとベッドから立ち上がった木こりが鍛錬に向かおうとしたその時、胸元から赤い光が放たれて熱を感じた。
(ペンダントが光ったってことは、魔物が結界のまやかしに惑わされなかったのね!)
『いいですか。この結界は、魔物を惑わせてこちらに近づけさせません。ですが、魔物がまやかしを突破した瞬間、ペンダントに嵌め込まれている赤い魔石が光って熱を持ちます』
今は亡きネックレスの持ち主の言葉を思い出した木こりは、慌てて胸元からペンダントを取り出すと、銀色のペンダントの真ん中に嵌め込まれた魔石が赤く輝いていた。
「全く、大人しくまやかしに惑わされればいいものを……とにかく、急がないと!」
この世界では、生きとし生けるものには大なり小なり魔力が持っている。
その中で、『人間の負の感情が触れてそれに変化した』と言われ、人間以上に魔力を宿した生物を一般的に【魔物】と呼ばれており、彼らは本能のままに魔力を持つ人間や動物を襲う。
そんな人間にとって害悪である魔物を退治するためには、属性魔法が付与された【魔武器】と呼ばれる武器を使うか、攻撃系の属性魔法で対抗するしかない。
だが、魔法がまともに使えず、金銭的な事情で容易く魔武器が買えない平民にとって、魔物は畏怖すべき存在なのある。
ちなみに、ペトロート王国では魔物が現れた際、第二騎士団か冒険者が討伐にあたっている。
(この村で今、魔物と戦えるのは私しかいない。そして、こんな小さな村を助けに騎士は来ない)
「今までだってそうだった。だから、エドガスが守った村を私が守らないと」
(期待してはダメ。そう、村に来たあの人達が助けに来るなんて期待してはいけないのよ)
一気に表情を引き締めた木こりは急いで外に出ると、そのまま一直線に馬小屋まで駆けていき、中で大人しくしていた愛馬に声をかけた。
「ステイン。悪いけど、久しぶりに夜のお仕事よ。行けるかしら?」
馬小屋入口付近に置いてあった乗馬用の馬具を慣れた手つきで取り付けると、木こりの真剣な声色に反応したステインが嘶いた。
「さすが、ステイン。頼りにしているわね」
頼もしい返事に小さく笑みを零した木こりは、ステインを馬小屋から外に連れ出すとそのまま馬上に乗った。
「それじゃあ、いつものように私を悪い魔物達のところに連れて行って」
一瞬だけ挑戦的な笑みを浮かべた木こりに、ステインは威勢よく嘶くと風のように森の中を駆けていった
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