第44話 魔物討伐へ!(side 騎士)

「「っ!?」」



(この警鐘、もしかして魔物が現れたのか!)



「メスト!」

「あぁ、分かっている」



 外が慌ただしくなったタイミングで、急いで外に出たメストとシトリンは隊長と副隊長が集まる会議室に入った。


(早速、訓練の成果が出ているのだろうか)


 怯えつつも隊列の中に入っている王都の騎士達を見て、苦笑いを零したメストはシトリンと共に輪の中に入ると、厳しい顔をしたグレアが入ってきて、テーブルに地図を広げた。


「では早速、作戦会議を。今回は、駐屯地からでは特定不可能な多種多様な魔物の大群が相手です。ですので、これから皆さんには……」



 グレアの作戦に隊長と副隊長が揃って頷くと、そのまま会議室にいた面子は全員、松明の明かりに照らされた正門前に向かった。

 そして、隊長と副隊長は、正門前で準備を済ませている部下達のもとに戻って作戦を伝え終えると、グレアが隊列を組んだ騎士達の前に立って声を張り上げる。



「駐屯地に来て早々でありますが早速実践です! 昼に行ったのはあくまで訓練! 今から行うのは正真正銘の魔物討伐! 皆さん、自らの命が惜しいのであれば死ぬ気で魔物を倒してこの国に住む国民を守って下さい!!」

「「「「「「はっ!!!!!!」」」」」」



 煌々と照らされた正門前で銀色の鎧を纏った騎士達が一斉に敬礼すると、グレアの号令で馬に乗った騎士達が魔物の出た森に向かって勢いよく駆けていった。




『副団長、報告です』

「何でしょう?」



 魔物の群れが出没した森の中を、騎士団を率いて馬で駆けていたグレアのもとに、駐屯地から魔物達の動きを監視していた騎士から通信魔法が付与されたブレスレット型魔道具を通して報告が届いた。



『リアスタ村に向けて侵攻している魔物達ですが、急に動きを止めて数を減らすと、3つの集団に分かれました』

「動きが止まったんですか? しかも、数が減らしている?」



 何かしらの原因で仲間割れでも起こったのでしょうか?


 魔物達の異変に首を傾げるグレアを他所に、監視役の騎士は報告を続けた。



「はい。しかも、3つに分かれた集団のうちの1つが駐屯地の方に向かっています」

「魔物の群れが3つに分かれた……」



 魔物達が群れを分ける時は大抵私たち人間が彼を追い詰めた時で……だとしたら、誰かが足止めしてくれているのでしょうか?



「いや、平民しかいない村でそんなことをしてくれる人がいるはず……もしかして」



 王都に来てから起きた騎士達の幾多の愚行を、レイピア一本で止めてくれた例の平民が村に来ている魔物達の数を減らしているのでしょうか?


『このことは内密に』とフェビル自ら口止めされた平民の存在が頭を過ったグレアは、そっと頭を横に振ると左手首につけていた通信用魔道具に魔力を流し込んだ。



『全騎士に告げます。今入った報告で、魔物達が何かしらの原因で動きを止めて数を減らし、群れが3つに分かれたのこと。そして、その群れの1つがこちらに向かってきています。魔物の姿が見えた瞬間に戦闘になると思ってください!』

「「「「「「ハッ!!!!!!!」」」」」



 後ろから聞こえてきた返事に小さく笑みを零したグレアは、前から迫ってきた魔物の大群を静かに見据えた。


 さて、久々の魔物退治と行きましょう。


 帯刀していた片手剣を引き抜くと、一番後ろにいるメスト達にも伝わるような大声で開始の合図を告げた。



「さぁ、魔物討伐の開始です!!!!」





「《ファイヤーアロー》!」

「《トルネード》!」

「《アースバレット》!」

「《ライトニング》!」

「これでもくらえ!!」



 グレアの合図で左右に展開した騎士達は、互いに連携を取りながら魔物達の退路を塞ぎつつ、攻撃魔法を撃ったり得物で切り伏せていったりした。

 その光景は、正しく王国を守護する騎士らしい勇ましい姿だった。



「《アイスバレット》」



 熊のような姿をした大型の魔物を部下達と共に追い込み、最後に得意の氷魔法で倒したメストのもとに、同じように部下達と共に大型の魔物を倒したシトリンが駆け寄ってきた。



「やぁ、メスト。この調子ならもうすぐで終わるね」

「そうだな。王都勤めの奴らも、長らくぬるま湯のような怠惰な生活を行ってきたとはいえ、やはり騎士だな。一切逃げ出すこともせず、果敢に魔物に立ち向かっている」

「そうだね。でも、その割にはスタミナが尽きかけているみたいだけど」



 そう言って、メストとシトリンは少し遠くの方で魔物討伐をしている王都勤めの騎士達に目を向けると、疲労を見せつつも騎士として研鑽を積んだ魔法や剣技で、最後に残った中型の魔物を次々と倒していた。


 まぁ、これに関しては残りの訓練日程でどうにかなるだろう。


 魔物討伐を終えて息切れ寸前の騎士達にメストは思わず苦笑いを浮かべると、左手首につけていた通信用魔道具が熱を持った。



『魔物討伐を終えた全騎士に告げます。一先ず、ここ一帯の魔物の群れは討伐されました。ですが、監視役の報告では魔物の群れの一部がリアスタ村に向かって侵攻を続けています。全員、強化魔法を使って急いで村の方に向かいます!』

「「「「「はっ!!!!!!」」」」」



 グレアの命令でメストとシトリンはすぐさま強化魔法を自分にかけると、近くにいた部下達を集めた。



「お前ら、リアスタ村がある方角は分かっていると思うが念の為まとまって行くぞ!」

「「「「「はっ!!!!!!」」」」」



 部下達や他部隊と共に夜の森を駆けたメストは、隊を率いる者として周囲を警戒しつつも、幌馬車を引いて村を出た木こりの後ろ姿を思い浮かべて小さく下唇を噛み締めた。


 頼むから、生きていてくれ。


 だが、その時のメストは知らなかった。魔物の数を減らしていたのが、木こりだったということを。


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