第43話 微かな違和感
王都に向かって幌馬車を走らせた木こりを見届けた後、メスト達は駐屯地に戻り、グレアに報告を済ませると訓練に合流した。
そうして、魔物退治が日常茶飯事の第二王国騎士団に勤めていた騎士達にとっては少々物足りない訓練で、長らく王都に勤めていた騎士達にとっては過酷な訓練が終わると、メストとシトリンは隊専用の執務室に戻って事務作業を進めた。
「まさか、ここまで堕落していたとは」
「うん、そうだね。基礎訓練程度で疲労困憊になるなんて……さすがの副団長も頭を抱えたでしょ」
「いや、むしろやるきになっていたぞ。終わった直後『これは、明日からの訓練が楽しみですね』って笑っていたから」
「うわっ! 嫌な予感しかしないんだけど!」
メストの言葉に、シトリンが大袈裟に嫌な顔をすると、ふとリアスタ村でのことを思い出した。
「そういえばあの人、リアスタ村から来ていたんだね」
2人しかいない執務室で書類を完成させていくシトリンの言葉に、向かい側でペンを動かしていたメストは一瞬手が止まると、シトリンを一瞥して軽く頷くと再び手を動かし始めた。
「そうだったな。まさか、あの村のから来ていたとは思わなかった」
巡回をしている時、彼が幌馬車を引いているところを何度か見かけたことがあるから、王都以外の場所から来ていたのは知っていたが、まさか辺境近くの小さな村から来ていたとは……
「それに、村であんな扱いをされていたなんて」
理不尽としか思えない村長から指示を無表情で応えて木こりを思い出したメストは、思わず走らせていたペンに力が入った。
そんな彼を一瞥したシトリンは、何でもないような表情をしながら完成した書類に不備がないか目を通していると、ふと先日起こった出来事を思い出した。
「そういえば、この前ラピスと一緒に巡回していた時にあの人に助けてもらったんだよね」
「あぁ、それなら俺もあの場にいたから知っていたぞ」
「えっ、あの時いたの?」
あの時、木こりと2人の騎士に気にしつつ周囲にいた人達を安全な場所に誘導していたから一応周りに気にしていたけど、まさかあの中にメストがいたなんて気付かなかった。
驚いて書類から顔を上げたシトリンに、真剣な表情でペンを走り終わらせたメストは、向かい側にいる人物に目もくれないまま頷くと完成した書類に目を通した。
「あぁ、あの時はダリアとデートをしていたからお前達のもとに駆けつけることが出来なかったが」
「あぁ、そういうことね」
難しい顔で駆けつけられなかった理由を口にしたメストに、納得した表情のシトリンは大きく溜息をつくとそのまま天井を仰いだ。
きっと、ダリアのことだ。『そんな野蛮なことに首を突っ込んでいる時間があるなら、私とのデートの時間を大切にしてください!』なんて言って、駆けつけようとしたメストを強引に止めたのだろう。
「そういえば、つい最近知ったことなんだけど、ダリア嬢って実はメストの騎士団入りに猛反対していたらしいね?」
「そうだな。何でも、『せっかく綺麗なお顔立ちが傷つくから』という理由で反対していたらしい」
「それはまた……」
憐れんだ表情で向かい側の人物を一瞥したシトリンは再び溜息をついた。
でも確か、メストが騎士を志すきっかけって、幼い頃に彼女が勇猛果敢に何かに立ち向かう姿に一目惚れしたからで……あれっ?
現在の貴族令嬢らしい傲慢な態度からは想像出来ない、幼い頃の凛々しい彼女の姿を思い出そうとシトリンが首を捻った瞬間、駐屯地に魔物の襲来を知らせる鐘がけたたましく鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます