第42話 木こりの扱い

「うるせぇ」



 そう言って木こりに冷たい目を向けた村長は、そのまま木こりに顔を近づける。



「お前はただ、俺たちの言う通りに物を運べば良いんだよ。まさかお前、俺たちが懇意で村に置いてやっていることを忘れたっていうのか?」



 怒気を含んだ村長の言葉に、僅かに苦い顔をした木こりは、すぐさま無表情に戻すとすぐ近くにあった大きな袋を担ぐ。



「そうでしたね。それでは早速、こちらの物資を全て王都にある得意先に卸してきます」

「フッ、分かればいいんだ。分かれば」

「そうそう。余所者であるあなたは、村のために私たちの言うことに従っていれば良いのよ」



 蔑んだ目を向ける村長と村人達を無視し、木こりは人だかりを戻った。

 その様子を黙って見ていたメストは、少しだけ顔を歪ませると、足元にある大きな袋に視線を落とす。



「メスト、一体何をしようとしているの?」

「『何』って、あの木こりの手伝いをするに決まっているだろうが」



(騎士たる者、困っている人を助けるのは当然のことだろうが)


 すると、村長が口を挟む。



「あぁ、それでしたら別に手伝わなくても良いですよ」

「えっ?」



 動きを止めたメストに、小さく溜息をついた村長は村人達の方を見た。



「ここから先はです。それに、騎士様達の手を煩わせるわけにはいきません」

「ですが、あの方は俺たちが受け取ろうとしていた物資を売るために、今から王都に行くんですよね? それでしたらせめて、あの方のお手伝いをさせていただいても……」

「大丈夫です」



 メストの申し出を村長が断った瞬間、人だかりが大きく2つに分かれ、その間から荷台を引いた馬車が現れた。



「なっ!」



(本当に馬車が! しかも、木こりが御者を務めているのか!)


 唖然とした顔をするメスト達を無視し、御者台から降りた木こりは、黙々と荷台に物資を積み込む。

 そんな木こりの後ろ姿を見た村長は、深く溜息をついた。



「ハァァァ……あいつ、元々この村の人間じゃないんです」

「えっ?」



(木こり、この村の住人じゃないのか? それじゃあ、どうして?)



「本来ならすぐに追い出すところを、こうして懇意で今でも置いてやっているんです。だからあいつは、俺たちの……この村の為に尽くすのは当然のことなんですよ」

「…………」



(確かにそうかもしれない。だが……)


 村長の言葉にメストが小さく下唇を噛んだ時、物資を全て荷台に積んだ木こりが御者台に戻って手綱を掴んだ。



「それでは、行ってきます」

「あぁ、ちゃんと金にして来いよ」

「……最善を尽くします」



 一瞬だけ苦い顔をした木こりは、不機嫌顔の村長とこちらを凝視している騎士達を一瞥すると、王都に向けて馬車を走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る