第41話 思わぬ再会

「っ!?」



(どうして、あなた達がここに……)


 こちらを見て唖然とするメスト達に、驚いて一瞬目を見開く木こりは村長の話を思い出す。



『奴らは俺たち平民を甚振るために、わざと1日分の物資しか用意せず、残りの日を駐屯地近くにあるこの村から物資提供をしてもらう』



(そうだわ。ここに騎士が来たということは……)


 騎士と平民の構図を目の当たりにした木こりは、鞘からレイピアを出そうと構える。

 すると、それに気づいた村長が木こりの前を遮った。



「やめろ。この人達はただ、この村に挨拶に来ただけだ」

「挨拶ですか?」



(この前、余所者である私に『騎士達が物資を強奪する話』をしてくれたのに)


 メスト達に警戒心を露にする木こりに、小さく溜息をついた村長は掲げていた手紙をそっと差し出す。



「あぁ、これがその証拠だ。お前だって、この国の人間なら手紙の内容くらい理解できるだろ?」

「……失礼します」



 構えの姿勢を解いた木こりは、メスト達を一瞥すると手紙を受け取って目を通した。



「……本当ですね。確かに、『騎士様達の訓練に伴い、この村に挨拶に来る』という文言が入っています。それに、手紙の封は王族の皆様にしか使えない王国印が入っていますから、この手紙の内容は間違いなく本当なのでしょう」



(陛下の名を使って、わざわざ嘘をつくとも思えないし)



「ほう。なのに、この王国印の意味も分かるのか? 俺はてっきり、ただのお飾りだと思っていたのだが」

「ご冗談を。この国の人なら平民でも分かることでしょう?」

「ハハッ、それもそうだな」



 木こりに疑いの眼を向けつつも渇いた笑いを漏らす村長。

 そんな彼に綺麗に折りたたんだ手紙を返した木こりは、そのままメスト達の前にある物資に視線を移す。



「それで、この物資達はどうされるのですか? 魔石はまだしも野菜の方は勿体ないのでは?」

「うっ、それは……」



(やはり、ここは俺たちの方で引き取らなければ……)


 木こりからの問いに、苦い顔をしたメストが受け取る旨を伝えようと口を開こうとしたその時、村長が不機嫌そうな顔で鼻を鳴らす。



「フン。そんなの、お前がいつものように王都まで運んで金にすればいい。当然、売った金は俺たち村人が貰う。何せ、ここにある物資は全て俺たちが用意したものだからな」

「物資を王都に運ぶ?」



 村長の言葉に僅かに眉間に皺を寄せたメストが首を傾げる。


(今回の訓練実施に際し、団長は『リアスタ村には王都までの移動手段が徒歩しかなく、ここから王都までは走っても丸半日かかる』と仰っていた)



「あの」

「何ですか、騎士様?」



 面倒くさそうな顔をする村長に、メストは臆せず問い質す。



「今から王都に行ったとして、恐らく着いた時にはすっかり日が傾き、酒場や食事処以外の店は全て閉まっていると思います。ですから……」

「あぁ、そう言えばあんたらは知らないんでしたね」

「はい?」



 厳しい表情をするメストに、ガシガシと頭を掻いた村長が説明する。



「実は、、リアスタ村に『馬車』という移動手段が手に入ったんです」

「馬車ですか?」

「えぇ、そうです。それで、俺たちはそれを使って王都の店に村の特産品を卸して金を得ているんです。馬車を使えば1時間ぐらいで王都に着きますから」

「なるほど。それでしたら、今から行っても間に合いますね」



 納得した表情で頷くメストに対し、一瞬難しい顔をした木こりが村長に目を向ける。



「ですが、いくら懇意にしている取引先でも、いきなり大量の野菜を持ってきても迷惑なのでは……」

「うるせぇ」

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