第18話 闇魔法

「『非属性の闇魔法』ですか?」



 ラピスの言葉に、メストが小さく頷く。



「あぁ、お前は見ていないかもしれないが、彼は魔力を足に纏って屋根伝いで走っていたり、持っていたレイピアに纏わせてリースタの魔法を打ち消したりしていたんだ」



 ペトロート王国では、大きく分けて2つの魔法の括りが存在する。

 1つは、『火・水・雷・風・土・氷』の6属性に分かれている、貴族の大半が使える属性魔法。

 そしてもう1つは、貴族の中で稀に生まれる属性魔法以外の魔法で……非属性魔法である。

 その魔法は無数にあると言われて、この魔法が発現した場合、すぐに王国に報告して精査してもらうよう義務付けられている。

 そして、非属性魔法の中でも王国から有用性があって安全だと認められた非属性魔法は、属性魔法と同じ扱いとなり、魔道具などに付与して普及することが認められる。

 だが、王国から危険視されて認められなかった非属性魔法は『闇魔法』と呼ばれ、王国の許可無しで魔法を行使することも魔道具などに付与することも禁じられる。

 尚、非属性魔法が発現した貴族は、他の貴族達から非属性魔法が使えることが明るみにならないよう、その者が得意とする属性魔法を使うようにしている。


 そんな危険な魔法を使っているかもしれない木こりに、間近で見ていたメストとシトリンは揃って目を細める。



「ちょっ、ちょっと待ってください! 強化魔法を使えば、足に魔力を纏わせて屋根伝いで走るのは出来きますが、魔法を打ち消す魔法なんて!」



(騎士学校で魔法のことについてある程度勉強しているから知っているが……それでも、『魔法を打ち消す魔法』があるなんて聞いてことが無い)



「だから、闇魔法なんだよ」

「っ!!」



 シトリンの冷気を帯びた声に、顔を引き攣らせたラピスは静かに口を噤ませた。





「でも、もしかすると彼が他国から来た人なのかもしれないよ? 他国でもこの国と同じように魔法の概念はあるんだし」

「……確かに、その可能性はありますね」



 いつもの柔らかな表情に戻ったシトリンの言葉に、ラピスが肯定するように頷くと、メストが眉間の皺を深くして考え込んだ。



「だが、初級魔法1回分の魔力しかない平民が、そんな得体の知れない魔法を何発も使えるものなのか?」

「そこなんだよね~」



 両手を頭の後ろで組んだシトリンが大きく息を吐く。



「レイピアもそうだったけど、魔力も完璧に使いこなしてしたし、騎士相手の攻撃も余裕で躱していた……もしかして、木こり君の正体は他国から亡命してきた元騎士?」

「それにしては、体格が細すぎる。仮に、俺たちと同じように鍛えていたとしてもあの体格……まるで、のような細さだったじゃないか」

「そうだね。でも、他国から来た騎士なら、そういう奴もいるのかもしれないよ?」

「確かにそうだな」



(シトリンの言う通り、何かしらの事情で他国から来た元騎士という可能性はあるかもしれない)



「やはりあの時、引き留めてでも聞くべきだった……下級騎士以上の実力がある彼に」



 一部隊の隊長であるメストが拳を握りながら後悔を口にすると、前から女性の甘ったるい声が聞えた。

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