第9話

 気が付くと俺は病室の天井を眺めていた。自分の身体に戻り、意識も戻ったようだ。


 葉子との出来事は生死の間をさまよっている時に見た幻だったのだろうか?


「痛たたた」


 身体を動かそうとしたら激痛が走った。


 交通事故の打撲の跡も痛むけど、葉子に殴られ続けたみぞおちのほうが痛かった。葉子と過ごした5日間は夢では無かったようだ。


 それ以来、葉子が現れることは無かった。ちゃんと成仏できたのだろう。


 いきなり現れて最初は鬱陶しいと思ったけど、良い子だったな。それに今までにない楽しい経験が出来た。


 もしこのまま死んでいたら、幽霊になって葉子と毎日デートする、そんな可能性も有ったのかも知れない。だけど俺は死ななかった。葉子の分もしっかり生きてやろう。


 そして葉子に言われた通り生身の女の子とデートしてやる。それを目標にして、俺は毎日リハビリに励んだ。


 3ヶ月のリハビリ期間中に俺は一般病室に移り、順調に回復した。でも、ふと気付くと天井の通気口をぼんやりと眺めている、そんなことが多かった。


 葉子と過ごしたのは5日間だけだったのに、喪失感はなかなか消えなかった。

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