第8話

 1週間契約延長してから4日目。相変わらず俺はみぞおちを殴られ手玉に取られ続けていた。けれど今まで冴えない人生だった俺には楽しい出来事だった。


 次はどこに行こうかと考えながら手をつないで歩いていると、葉子は急に立ち止まり、少ししんみりとした表情で聞いてきた。


「おじさん、楽しい?」


「うん、すごく楽しいよ!」


「まだまだデートしたい?」


 俺は葉子を成仏させてやらなきゃいけないのにデートを楽しむことを選んだ。


「うん!まだまだデートしよう!」


「そう……じゃあしっかり生きて、生身の女の子ともデートしなきゃね!」


 生きる……そうだった。俺は幽体離脱中だということをすっかり忘れるくらい楽しんでいた。


「ありがと、おじさん!楽しかったよ」


 葉子は背伸びをして俺の頬にキスをした。そしてすうっと俺の目の前から消えていった。葉子の居た場所には目薬が落ちていた。


「葉子……」


 なんだよ、いきなり現れていきなり消えていくって、勝手すぎるよ、なんなんだよ。


 俺は目薬を拾い上げ、口を半開きにしながら目に差した。


 くそぉ、泣いているんじゃないぞ。目から目薬が溢れているんだ。


 ひとり残された俺は激しい喪失感に襲われた。葉子が居ない世界なんて考えられない。そんな世界はいらない。


 そう思った瞬間、俺はふわっと意識を失った。


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