アルビ・リリィ
どれくらい、時間がたっただろうか。
聖剣アテル・リリィに僕は体を拘束され、床に固定されたまま、動けないでいた。
それが突然、自由になった。
僕の体を縛っていたアテル・リリィは、粉々になった。
「遅くなってごめん、ハル」
顔をあげると、僕と同じくらいの年代の、金髪碧眼の爽やかイケメン。
そこにいたのはアンスールだった。
アンスールとは、冒険者ライセンスの試験で会って以来だった。
なぜ君がここに……
「この様子だと、ミオさんは連れさられてしまったみたいだね。すまない」
「アンスール、なぜ君があやまるんだい?それに、どうして急にここに?」
疑問符だらけで頭の中が混乱していた僕に、アンスールは丁寧に説明してくれた。
僕は、このウィザリスの第二王子だ。
今日は元々、ロゼルス卿と王宮であう予定だったんだ。
だけど、ロゼルス卿は予定の時間になっても現れなかった。
だから、何かおかしいと思ってルクネリア大使館にむかったんだ。
そして、そこで見てしまった。
ロゼルス卿が何者かに魔法をかけられている所だった。
その何者かは、魔女ウルと名乗ったんだ。
魔女ウル……千年前の魔大戦を引き起こしたと言われる、伝説の魔女だ。
ウルはその大戦の折に封印されたとウィザリスの伝承に伝えられている存在なんだ。
それ以来、魔女がこの国の歴史に登場した事はなかったはずだ。
まさか本人ではないだろうけど……。
ともかく、その伝説の魔女ウルと同じ名前を名乗ったその者は、ロゼルスに魔法を施すと、ふっと消えてしまった。
そして、それからロゼルスがおかしくなってしまったんだ。
「すまない。もっと早く来ていれば、ミオさんを連れて行かれる事はなかったのに……」
アンスールは僕を助け起こしながら、申し訳なさそうに言った。
「君が謝る事はないよ。それに、僕はよりにもよって魔剣ルクス・リアまで奪われてしまったんだ。レベル6失格だよ」
僕はまだ、ロゼルスに完敗したそのショックから立ち直れていなかった。
「まだ手はあるんだ。ロゼルスは、連れ去ったミオさんを、母国ルクネリアに連れて行こうとしている。その為には、乗って来た飛空艇に戻らなければいけないだろう。ロゼルスが乗って来た飛空艇に行けば、ロゼルスに追いつけるかもしれない」
「ありがとうアンスール……だけど、僕は魔剣ルクス・リアを奪われてしまったんだ。それに、ミオがいないと
「ハルくん……」
アンスールは何も言わず、じっと考えこんでいた。
その時、突然扉が開いた。
今度は緩やかにウエィブの掛かった腰まである真っ白な長い髪と、
その顔には見覚えがあった。
さっき僕を拘束した、聖剣アルビ・リリィの人間時のすがただった、
でも、さっきは黒い髪で黒いワンピースを着ていたのに、今度は髪も服も白い。
どうなっているんだろう。
女性は、かなりおぼつかない足取りで僕らの方に歩いてきた。
「ハル……さん……すみませんでした……」
女性は僕の前で、申し訳なさそうに床に膝をつき、頭をさげている。
「あ、あなたは一体……」
僕には何がなんだかさっぱりだ。
「申し遅れました。私の名は聖剣アルビ・リリィ。ロゼルス様の剣です」
「聖剣……でも、さっきはアテル・リリィと名乗ってなかった?」
「それは、あの魔女ウルに操られているだけです。今の私は、アルビ・リリィの残留思念にすぎません。魔女ウルによって聖剣アルビ・リリィがアテル・リリィに変えられてしまった時、その残留思念の一部が切り離されました。それが私です」
「じゃあ君も、本体は魔女ウルに操られているのか……」
「その通りです。私が不甲斐ないばかりに、あなたに迷惑をかけてしまって、本当にすみません」
「それはいいよ。仕方無いさ」
「今の私の本体は、ロゼルス様の指輪に移っております」
「指輪?」
「はい。ミオ様がかつてロゼルス様にプレゼントした指輪です。ロゼルス様は魔女ウルに操られた時、この指輪をお捨てになられたのです。そこで私はとっさにこの指輪に憑依する事で、消滅を逃れる事ができました」
「そうなんだ」
「ハル様、どうか私を、もう一度ロゼルス様の指にはめていただく事はできないでしょうか。そうしていただければ、私は命を賭して、ロゼルス様の意識を元に戻す為に尽力します」
アンスールが話に割って入ってきた。
「ハル、その役目はこちらで引き受けよう。ハルにこれ以上無理させるわけにはいかない」
僕は少し考えた。
確かに、今の僕では、
でも……ミオを連れ去られて、このまま大人しく待っているだけなんて、それだけは嫌だ。
「アンスール、僕にやらせてもらえないだろうか……僕では力不足なのは、わかっているけど」
「力不足なんて事はないさ。では、お願いするよ。僕もサポートさせてもらうよ。聖剣アルビ・リリィさん、ハル、ロゼルスを頼みます」
「承知しました。ハル様、どうかお願いします……」
聖剣アルビ・リリィはそう言うと、一瞬で人間の女性の姿から銀の指輪の姿に変わった。
僕はその指輪を拾い上げて、ポケットにしまった。
「アンスール、急いだ方がいいね。すぐに出発しよう」
「ああ」
僕とアンスールは頷きあった。
二人で店を出ようとした、その時だった。
再び店の扉が開いたんだ。
「すまないな二人とも、話は聞かせてもらったよ」
そこに現れたのは、ワタルさんとカエデさんだった。
「俺たちも、協力させてもらうぜ」
「ミオさんはわたしの大切な仲間……連れて行かせはしない」
ワタルさんにカエデさん……ありがとう。
二人が手を貸してくれたら、百人力だ。
なんとしても、ミオを取り戻そう。
その時、僕の目の前の空間が裂け、人一人が通れるくらいの異界への扉がパックリと開いた。
こ……今度はなんなんだ……
突然開いた扉の中から出て来たのは、小さな女の子……フェオだった。
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