ナレジャーラ遺跡(後)

 僕らはナレジャーラ遺跡を進んでいた。

 同じ様な四角い部屋がいくつもある場所をひたすら進んだけど、どれだけ進んでも一向に最深部に辿り着く事ができないでいた。


「この迷宮を攻略するにはどうすればいいんだろう」


 途方に暮れていると、リアが僕の袖をひっぱってきた。


「ハル、あっちのとびらのむこう」


「リア、なにか分かったの?」


「なにかある」


「トラップかな?」


「トラップじゃなさそう。ちがう匂いがする」


「よし、行ってみよう」


 リアが示した方の扉を開けて先に進むと、部屋の中には大きな宝箱が置かれていた。


「開けてみよう」


 宝箱の蓋を開けると、中には古い紙が一枚入っていた。

 

 紙には何か四角い絵の様なものがたくさん描かれている。

 

「何かしら……」


 ミオは僕の手にした紙を覗き込んでいる。

 

 僕はすぐにそれが何か分かった。

 この迷宮に入ってから僕が書き込んでいた地図と、今手にした紙を見比べてみる。

 ある部分がピッタリ一致していた。

 

「これ、地図だよ」


 その紙には、僕らが未だ行っていない場所まで描き込まれていた。


「地図……? でも、このダンジョンって、毎回地形が変わるんじゃない?」


 確かに、そうだった。

 このダンジョンは一定期間毎にその形状を変える。だから先人が遺した地図は役に立たなくなる。

 

「ハル……この紙からもやみの匂いがする」


 この地図にも、闇魔法が仕込まれているんだろうか……


 そうか、この地図は魔法の地図なんだ。

 この地図も迷宮と共にその内容が変わる仕様になっているんだ。

 

 こうなったら、この地図を頼りに進むしかないな。

 

 僕は、地図から今いる場所を探して、最深部への最短ルートを導き出した。

 そして自分の持っている地図に、最短ルートだけを描き記した。


「よし、このルートで行こう。次にいつ、このダンジョンの地形が変わるか分からない。変わってしまったら、この地図を見ても現在地の場所がわからなくなってしまう。そうなったら迷子だ。急いで最深部へ向かおう」


 ギルドによれば、ダンジョンの地形が変わる周期は数日間だそうだが、何日で変わるのかはわからないそうだ。

 一日で変わる事もあれば、三日の時もあって、予測ができないらしい。

 だから今のこの地形があとどのくらい、そのままでいてくれるのかを予想する事もできない。

 

 僕らがいる間に変わらないでいてくれる事を祈るしかない。

 

「急ごう」


「うん、急ぎましょ」


「わかった」


 僕らは、最短ルートを一気に駆け抜けて最深部に向かった。


 その甲斐あってか、それから何部屋かを通過した後、ようやくダンジョンの最深部に辿り着く事ができた。

 このダンジョン、最深部にはきっちりと、ボスモンスターを配置してくれていた。

 

 最深部は一際大きな部屋になっていて、その奥に通じる扉を守る様にボスモンスターが待っていた。

 大きなハンマーを持った、一つ目の巨人。

 

 背の高さは僕の身長の3つ位はありそうだ。

 一つ目の巨人は、僕らの姿に気がつくと、両手をあげて雄叫びを上げた。

 今にも向かって来そうな勢いだ。

 

「リア、魔剣に変形してくれ」


「うん、わかった」


 リアは素早く変形し、魔剣の形を取った。

 

「ミオ、強化魔法バフをかけてくれるかい?」


「任せて!」


 ミオが魔法を唱えると、僕の体が一気に軽くなった。

 これなら行ける。

 

 僕は一気に巨人に向かって駆け出した。

 

 あっという間に巨人との間を詰める。

 巨人は巨大なハンマーを振り上げて、僕に向かって振り下ろした。

 

 その大きなハンマーは、普通に食らったら骨までぺしゃんこに潰されてしまいそうな大きさだ。

 でも、なぜか今の僕は勝てる気がしていた。

 僕は魔剣をひと薙ぎしてみた。

 

 がんっっと甲高い音がして、魔剣とハンマーがぶつかり合う。

 その大きなハンマーは、僕の魔剣によってあっさりと弾き返された。

 

 返す刀で僕は一つ目の巨人に切り掛かる。

 勝負は一瞬だった。

 

 巨人の体はあっさりと切断され、上下に分かれて地面に倒れた。

 

「よーし、ボスを倒したぞ」


「やったねハル!」


 ミオが駆け寄ってくる。


「はる、つよい」


 魔剣から元の幼女に戻ったリアは、嬉しそうに抱きついてきた。

 

 僕らはひとしきり喜びを噛み締めあった後、さらに奥へと続く扉を開けて中に入った。

 目指すお宝はこの奥だろう。


 扉を超えて奥に向かうと、再び小さな部屋の中だった。

 だけど、部屋の中は明るく照らされていた。

 部屋を明るく照らしていたのは、僕らが探し求めていた物だった。

 

 部屋の中央に祭壇のようなものが置かれていて、その中央に光り輝く透明なオーブが置かれていた。

 ギルドからの依頼は、このオーブを回収して持って帰る事だった。

 

 このオーブにどのくらいの価値があるのかは、わからない。

 これもアーティファクトの一つなんだろうか。


 オーブを取り出すと、さっきまで眩く輝いていたオーブから光が消え、ただの透明な球になった。


「よし、オーブを回収した。これで依頼クエスト終了クリアだね。急いで帰ろうか」


 僕は元来た道へ戻ろうと、扉の方を振り向いた。


 その時だった。

 

 突然、開いていた扉が急に閉まった。


 慌てて扉に向かって走ろうとした時、大きな音を立てて地面が揺れ出した。


「な……なんだ……」


「何が起こったの?」


 あまりに激しい揺れに、僕もミオもその場を動けないでいた。

 

 揺れはしばらく続いた後、突然収まった。

 

「今のは、なんだったんだろう……地震かな」


「ねえハル、私いやな予感がするんだけど……」


 ミオは不安そうにつぶやいた。

 

 リアは部屋を見回して、再び匂いを嗅いでいた。

 そして、言った・

 

「はる、さっきまでとにおいかわった……」


 変わった……まさか……

 

 僕は慌てて、出口の扉を開ける。

 そこにあった部屋は、さっき僕らが倒したボス部屋ではなかった。

 

 

 今の地震で、迷宮の形状が、リセットされたんだ……

 

「は、ハル……わ、私たち……帰れないの……」


 ミオは、震えていた。

 

 無理も無い。ここにくるまで、かなり複雑な地形を通ってきたんだ。

 それを丁寧に記録マッピングしながらやってきた。

 その地形が変わってしまっては、もうどうやって戻ればいいのかわからない。


「ハル、いままでありがとう、楽しかったわ……」


 ミオは地面にへたり込んでしまった。

 

「ねえ、最期の時は三人一緒で過ごしましょう。こんなところで一人で死ぬのは嫌だわ」


 すっかり落ち込んでしまっていた。

 

 僕も一緒になって、ミオの隣に腰掛けた。

 

 未だ僕は諦めるわけにはいかない。

 ミオとリアを守るんだ。

 

 例え僕らの冒険がここで終わるかもしれなくても、最後まで希望を捨ててはいけない。

 

 考えるんだ。

 何か、手はないだろうか……

 

 その時、リアが僕の背嚢ナップサックの匂いを嗅ぎ出した。

 背嚢ナップサックに何かを見つけたようだ。

 

「はる、さっきと匂いがかわってる」


「さっきと?」


「うん」


 そこで僕は思い出した。

 さっき手に入れた地図、あれには闇魔法が作用していた。

 

 だとしたら……

 

「ミオ、リア、助かるかもしれない」


「本当?」


 さっきまで失意のどん底だったミオの顔に希望の光が灯った。

 僕は背嚢ナップサックから先程手に入れた地図を取り出す。


 そして、僕が自分で描き記マッピングした地図と照らし合わせる。

 

 予想通り、地図に描かれていた地形が、さっきと変わっていた。

 僕の描いた地図とは全然違う迷宮の地図がそこには描かれていた。

 

 ありがたいのは、最深部のオーブを示すマークが描かれていた事だった。

 それのおかげで、その場所がこの部屋だとわかる。

 

 僕は自分で描いた地図を捨て、新たな紙に、この部屋から入り口までの最短ルートを新しく描き記した。

 

 これを見ながら帰れば、無事に入り口まで帰れるはずだ。

 

 この地図を手に入れておいてよかった。

 これがなければ、とてもこの複雑な迷宮をもう入り口まで戻る事は出来なかったに違いない。

 

「よし、この新たに描いた地図の通りに進もう。これで帰れるはずだ」


「よかった。ハル、ありがとう」


 そう言って、ミオが抱きついてきた。

 僕は思わず、頭が真っ白になった。

 しばらく、こうしていたい。

 

「はる、かおあかい」

 

 ふと見るとリアが僕の顔を覗き込んでいた。

 

「な、なんでもないよ。さあ、行こうか」


「う、うん……」


 ミオは照れながら、僕から離れて乱れた服を直しながら立ち上がった。

 

 僕らは無事にナレジャーラ遺跡を脱出できた。

 

 ギルドに戻って、オーブを納めて報酬をもらう事が出来た。

 


 僕らのパーティは、順調にクエストをこなせる様になっていた。

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