ナレジャーラ遺跡(前)

「ナレジャーラ遺跡……ですか?」


 ギルドのお姉さんが出してくれた依頼クエスト

 それは、高難易度のダンジョン探索クエストだった。

 

「そ。ナレジャーラ遺跡はね、ヴァリアント・ダンジョン・クエストと言って、迷宮ダンジョンそのものに謎の魔法がかけられていて、なぜか一定期間を超えると迷宮そのものの形が変わってしまう、不思議なダンジョンなの。常に形が変わるから、地図を作る事ができなくて、毎回手探りで攻略しなければいけないの。下手をすれば中で迷子になってしまうかもしれないダンジョンなの」


「なんだか、難しそうですね」


「そういう高難易度ダンジョンの依頼クエストはね、アーティファクトを持った、レベル6以上の冒険者がいるパーティにしか出せない依頼なの。やってくれるかなハル君」


「わかりました。僕らで攻略してきます。ダンジョン最奥にあるオーブをとってくればいいんですね」


「お願いね。危なくなったら無理しないで引き返して来て」



 そんな訳で、僕とミオ、そしてリアは何日分かの非常食料を用意して、ナレジャーラ遺跡攻略のために旅立った。

 

 

 リトルテルースから何日か掛けてウィザリス郊外の砂漠を抜けた先に向かうと、ナレジャーラ峡谷と呼ばれる、高く聳える岩肌と切り立った崖が現れる。

 

 岩壁と岩壁の間の細く狭い崖の下の通路を延々と進んで行くと、やがて岩壁に大きな穴が開けられた場所にたどり着いた。


 穴の周りは荘厳な彫刻が彫られていて、古代の誰かがこの洞窟を掘ったのだとは分かる。

 けど、誰が掘ったのか、そしてなぜ中の地形が変化するのかについては、今では一切の記録が残っていないから、誰も分からない。

 

 ナレジャーラ遺跡の前には、ギルドから派遣された門番が立っていて、不用意に一般人やレベルの低い冒険者が中に入らないように常に見張っている。


 彼らが手にしている魔導具に冒険者タグをかざすと、ギルド本部と通信されて僕らのIDが本部のシステムと照合され、通行が許可された。

 

 こうして僕らは、ナレジャーラ遺跡に入って行った。

 

 入口を入ると地下へと続く石作りの階段があった。

 階段を降りるとそこは、光が差し込まない真っ暗闇の世界だった。

 

「何も見えないや……」


「まって、今あかりを点けるわ」


 ミオが照明ライトニングの魔法を唱えると、空中に白く輝く光の玉が出現した。

 

 光の玉は僕らの周りを明るく照らしてくれる。

 

「さすが聖女だね」


「ミオ、すごい」


 僕とリアは改めてミオの魔法に感心していた。

 ミオは嬉しそうに両手を腰に当てて胸を張っている。

 

「任せてよ。この程度の初級光属性魔法なんて余裕だから」


 僕たちは迷宮のさらに奥へと歩みを進めた。

 しばらくは、天井は高いけど左右の幅か狭い通路の中をひたすら進むだけだった。

 

 すると突然、リアが叫んだ。

 

「ハル、ストップ!」


「え、どうしたの?」


 立ち止まってリアを見る。

 リアは何か匂いを嗅いでいる様に見える。

 

「やみのにおい……このさき、なにかある……」


 リアは僕らの少し先を指差した。

 そこには、見る限り何もなさそうだけど……

 

「やみ……闇属性魔法のトラップかな」


「わからない……でも、なにかある」


 僕は試しに背嚢ナップサックの中から缶詰を取り出した。非常用食料の一つだ。

 取り出した缶詰を、リアの指差した方に向かって軽く放り投げてみた。

 何もなければまた回収して、背嚢ナップサックに戻すだけだ。

 

 だが、放物線を描いて飛んでいった缶詰は、まさにリアが指差した場所で真っ二つに分かれて落下した。

 突然、高速で大きな鎌の様な刃が壁の中から現れて、缶詰を切り裂いたんだ。

 

「ひえっ」


「なにこれ、あぶなっ」


 僕とミオは顔を見合わせる。

 お互いに変な汗が出ていた。


 リアは少し前に出て、冷静に匂いを嗅いでいた。

 やがて、嗅ぎ終わると僕の元に戻って来た。

 

「ハル、下の方はなにもなさそう……」


「そうか、じゃあしゃがみながら通ればいけそうだね」


 さっき缶詰を切り裂いた刃は、ちょうど僕の首元の辺りで出て来ていた。

 それより下の方を通ればいいわけだ。

 

 僕らは、四つん這いになって一人ずつこのトラップを抜ける事にした。

 まずは、僕からだ。

 

 四つん這いになって進むと、分かった事がある。

 床には、いくつかの骨が転がっていた。

 過去にこのトラップにやられた冒険者のものだろう。

 

 僕は手を合わせ、そーっと骨を脇に退けながら進んだ。

 僕の次にミオ、そしてリアと無事にこのトラップを抜ける事ができた。

 

 しばらく進むと、通路の先に扉があった。

 扉を開けると、その先には、四角い部屋が開けていた。

 

 部屋の中には何もなくて、それぞれ四方の壁に同じ様に扉がつけられていた。

 一つは今入って来た扉だから、三つある扉のどれかに進む必要がありそうだ。

 

 試しに僕は三つの扉を全て開けてみた。

 三つとも、その先にはまた同じ様な四角い部屋に繋がっていた。

 三つの扉から抜けた先のどの部屋にもまた同じ様に四方に扉がある。

 

 そう、これがこのダンジョンの特異性だ。

 この部屋は毎回構造が変わって、正解のルートは決まっていない。

 

 僕らはとりあえず、手持ちの紙に来た道を書き込みマッピングしながら、適当に扉を開けながら進んで行った。

 

 何度か扉を開けて中に進んでいったけど、しばらくは何もない部屋が続いていた。

 時々、扉を開けたらモンスターが待ち構えていた事もあったけど、リアに魔剣状態に変化してもらって切り捨てたら、あっさりと倒す事ができた。

 

 それからも扉を開けて進み続けた。

 たまに、壁に開いた穴から矢が飛んでくる部屋や、壁に開いた穴から炎が吹き出してくる部屋、部屋の真ん中の床が脆くて落とし穴になっている部屋などもあった。


 その都度、前もってリアが教えてくれたので、僕らはなんとかトラップを回避する事ができた。

 リアがいなければ、危なかった。

 

 だけど、何度扉を開いて進んでも、なかなか目的の最深部に辿り着く事が出来なかった。

 

 参ったな、このダンジョン、いったいどこまであるんだろう……

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