戦闘訓練
聖女科を卒業したら冒険者になる……と言い出したのは、入学してから五年程が過ぎた頃の事だった。
貴族社会と言葉だけのルクネリア正教に嫌気が差し、身分を超えて本当に助けが必要な人たちを救済するには、冒険者になるのが一番良いのですとママは言ったらしい。
冒険者ギルドは表立っては国を超えて大陸をモンスターや魔族から守る為に各国が協力して設立した組織とされているが、その実態は、影響力が薄れてきた為に騎士修道団の数を思う様に増やせなくなって業を煮やしたルクネリア教が、宗派を問わず戦闘員を増強する為に設立した組織である事は、
それでも母は冒険者になったし、私も母の様になりたかった。
「ミオさん、貴女の決意はよくわかりました。もう止める事は致しません。ですが、冒険者になると言う事は、戦闘をしなければいけなくなるという事でもあります。聖女科の卒業生を、ただその様な場所に送り込んで見殺しにする事などできません」
「貴女にはこれから、
「望むところです」
そうして私は、聖女科としての授業とは別に、戦闘訓練もする事になった。
……んだけど、いきなり実践に出される事になったのには少し焦った。
聖ルクネリア神学院の土地はだだっ広くて、科ごとに校舎も寮も離れていた。
聖女科や
生徒達は、自分が所属している科の校舎と寮以外に行く事はないから、他の科がどうなっているのか、全くわからない。
だから、滅多に行けない
他の聖女科の生徒からは、どんな所か後で聞かせてねと言われていた。
「貴女がミオさんですわね。わたくしは
「ミオちゃん、よろしくねっ」
ステラディア生まれのシエルとウミの二人は、二人とも碧い眼をしていた。
髪の色は二人とも銀の色だったけど、シエルは腰まで伸ばした長いストレート、ウミはショートに切り揃えていた。
私も、戦闘訓練の時は同じ制服を着て参加する事になった。
だけどシエルはなぜか制服を着ないで、ヒラヒラしたお嬢様風の私服で参加している。
そんなので本当に戦えるのかな。
戦闘訓練は、
私たち三人で協力して、闘技場に放たれたモンスターを倒さなければいけない。
「戦闘前に確認しておきたいことがありますわ。ミオさんは、魔法はどのくらい使えまして?」
戦闘訓練前のミーティング、シエルは落ち着いた口調で聞いてきた。
「えっと、初歩的な
「そうですか、それだけ使えれば十分ですわ。では、ミオさんは魔法でわたしたちを援護していただけますかしら」
「あ、はい。頑張ります」
「直接攻撃はウミさんが行いますわ。わたくしは主に攻撃魔法でウミさんをサポート致しますわ」
「一緒にがんばろうね、シエルちゃん、ミオちゃんっ」
シエルは攻撃魔法用に特化された杖、ウミさんは両手剣を構える。
私も杖を取り出して、
「準備が整った様だな、それでは、戦闘訓練を開始する」
教官の合図で闘技場奥の扉が開いた。
扉の奥から、物凄い大きな羊が怒りに任せて突撃してきた。
見た目は羊なのにまるで、闘牛の様な猛り狂い方をしている。
「き、来たよ」
初の実践に怯える私。
「わたくしにお任せあれですわ」
「ミオちゃんは下がってて」
対してシエルとウミは、余裕たっぷりで楽しそう。
その羊——カオスシープ——は凄い速さで私たちの元へと走って来た。
「まずはわたくしから行きますわね。
シエルの杖から炎の球が現れて、カオスシープの元へと飛んで行く。
カオスシープは素早く動いて、炎の玉を躱した。
突撃の勢いは弱まらない。
「わたくしの魔法を避けるとは、やりますわね。 ……では
今度は氷の槍がカオスシープに向かって飛んでいった。
カオスシープは、氷の槍も躱して行く。
「まだまだですわ。次はこの魔法ですわ。 ……
今度は雷が空から降って来た。
雷はカオスシープの少し横の地面に落ちた。
シエル、魔法は派手だけど命中率あまりよくないのかな……
「全部避けられるとは、さすがですわ。 ……ウミさん、後は頼みましたわ」
「うん、任せてっ」
ウミは両手剣を構え、カオスシープに向かって飛び掛かって行った。
ウミの剣がカオスシープを捉え、カオスシープは倒れた。
こうして私の初戦となった戦闘訓練は、無事に終了した。
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