ノブレス・オブリージュ
僕らはリトルテルースに戻ってきた。
最初、リアは僕の家に泊めようと思ったんだけど、僕の借りている部屋はあまりにも狭くて足の踏み場もない有様だった。
そんな訳で人間モードの時のリアは僕と分かれて、ミオの家……つまりはリュウさんの持ち家に住むになった。
街に戻った翌日、僕はリアを連れてギルドに向かった。
リアはこう見えても、れっきとした魔剣だ。アーティファクトとして、ギルドに申請する必要があった。
「はい、リアちゃん、アーンして」
口を大きく開けるリア。
ギルドのお姉さんは、リアの口に水銀体温計を入れ、体温を計ると、手にした帳簿を埋めて行く。
「はい、リアちゃん、次はこれに乗ってね」
今度は体重計だ。
リアが乗ると体重計に付けられた天秤の端が大きく傾く。
ギルドのお姉さんは天秤の端に錘を乗せて、天秤が釣り合った所の目盛りを記入していた。
「リアちゃん、じゃ、次は身長測ろっか」
こうしてリアのデータは細かく測定されていった。
入念にデータを採取したお姉さんは、それらを端末に入力して行く。
そして、画面に表示された数字を読み上げる。
「ハル君、レベル6昇進おめでとう」
僕はレベル5から6に上がった。
「あ、あの……お姉さん……」
「ん?どしたの?」
「少なくないっすか……確かにリアはこんな見た目だけど、戦闘では剣になってくれるんです」
「言いたい事は分かるわ。でもハル君、ごめんね。リアちゃんのデータは、まだギルドのデータベースにも無いのよ。そう言う場合、一律レベル6になってしまうの」
この大陸のありとあらゆるデータを収集しているギルドといえど、まだ分からない事は多いらしい。
リアは一旦レベル6として登録された。
この先、リアのレベルをどこまで上げられるかは、持ち主である僕がリアを使いこなせるかにかかっていると言う訳だ。
「分かりました。僕がリアの力を引き出して、ギルドにリアの実力はレベル6なんかじゃ全然足りないって証明してみせます」
「そうね、その意気よハル君」
用は済んだので、じゃあ僕はこれで……と店に戻ろうとした時、ギルドのお姉さんに呼び止められた。
「そうだハル君、教えておきたいことがあるわ」
「何ですか?」
「ハル君はこれで立派にアーティファクト持ちになったわ。これからは、この国の誰もがあなたを一人前の冒険者として認めてくれるの」
「いやー、僕なんてまだまだです」
「自覚を持って。〝アーティファクトを手にする〟と言う事は、そう言う事なのよ。望むと望まざるとに関わらず、アーティファクト持ちには責任が伴う事になる。あなたはこれから、他の冒険者の手本とならなければ行けないのよ」
メガネをクイって直しながら真剣な目つきになるお姉さんの迫力に、僕は気圧されてしまった。
「き、肝に銘じます」
「そう、それでいいわ」
「じゃあ僕は店に戻ります」
「あ、待って」
「まだ何か?」
「ハル君、アーティファクトを手にした冒険者には、特別な
「特別な……
「そ、今はまだ、リアちゃんを登録したばかりだから何も依頼はきてないけれど、アーティファクトの特性や実力に応じて、他の冒険者には頼めない難度の高い依頼を、直接ハル君へお願いする事が出て来ると思うわ」
「僕専用の
「そう。大変かもしれないけど、その時はお願いね」
「分かりました……因みにその任務、断ったらどうなるんですか?」
「もちろん、ギルドとしては強制はしていないわ」
「ギルドとしては……?」
「そうよ。そう言う特別な任務は依頼主も特別である事が殆どなのよ」
「たとえば?」
「そうね、国王様とか、領主様とか……ね
「こ、断り辛い……」
「ふふ、それがレベル6から上に上がると言う事なの、頑張って」
「……気が滅入ってきましたよ」
「そういえば、ハル君、白薔薇公爵って知ってる?」
「しろばら……初めて聞きました」
「ルクネリア皇国の公爵様、何でも凄いイケメンって噂よ」
「は、はあ……」
「その方が何と、ウィザリスに来るらしいのよ」
「は、はあ……」
「白薔薇公爵様を一目見てみたいって、女子の間で今噂になってるの」
「は、はあ……」
「どんな方なんだろ……ギルドには来てくれないよね……あーわたしもみてみたいなー」
「……じゃ、帰りますね。行こうかリア」
「うん。リア帰る」
まだカウンターで妄想を膨らませているお姉さんを尻目に、僕はギルドを出て店に戻った。
この時の僕はまだ、白薔薇公爵なんて、自分とは無関係の遠い世界の人だと思っていた。
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