第24話 リア

「ハル……しっかりして……ハル!」


 目を覚ますと、心配そうに僕を見つめるミオの顔がすぐ側にあった。

 

 冷たい床の感触が、背中から伝わってくる。

 しかし、頭の後ろには、柔らかくて暖かい感触。

 

 どうやら、ミオに膝枕してもらっていたらしい。

 

「僕は……」

 

 まだぼんやりとする頭を抑えながら、上体を起こした。

 

「覚えてないの?あの魔剣に触れた途端、まるで意識を失うかのように倒れたのよ」


 そうだ!

 

 魔剣ルクス・リア、その記憶の中にいたんだ。

 

 肝心の魔剣はどうなったんだ。

 

 魔剣があるはずの場所に目を移す……が、そこに魔剣は無い。

 

 代わりに、小さな女の子がちょこんと座り込んでいた。

 

「魔剣は、私たちが目を離した隙に、いつの間にか、消えてしまったわ。それでね、なぜかこの子、突然ここにいたのよ」


 小さな女の子は、生まれたままの姿でそこに座り込んでいる。


 金色の長い髪を無造作に伸ばしていて、おかげでうまく隠せてはいるが、何か着せてやらないと。


 それと、髪で顔が半分くらい隠れてしまっているが、赤い目をしていた。

 

 ハガル譲りの綺麗な金色の髪ブロンド、それにウィルドと同じ緋色の瞳。

 

「君が、ルクス・リアだね」


女の子は僕の方をじっと見つめながら、静かに頷いた。


「この子が……魔剣ルクス・リアなの?」


 ミオは、しんじられないという顔でまじまじと見つめている。

 

「うん。この子はきっと、ハガルとウィルドの生まれ変わりだよ」


「ハル君、気を失っているだけかと思っていたが、君は何かを見たんだね」


 ワタルさんは顎に手を当てながら、興味深げにルクス・リアの生まれ変わりを眺めている。


「はい。魔剣の記憶を覗き見ました……とても悲しい記憶でしたが……」


 カエデさんは首に巻いていたスカーフをルクス・リアに着せていた。


 小さなルクス・リアには、ちょうどいいサイズだ。

 

 僕は、皆に見た記憶を話した。

 

「姿が変わったとはいえ、魔剣である事には変わりないだろう。ハル君、その子は君の元にいる方がいいだろう」

 

 こうして結局、ルクス・リアは僕が預かる事になった。

 

 僕たちは、洞窟を出た。

 

 来た時の船に皆一緒に乗って、港町タレトまで戻った。

 

 ワタルさんとカエデさんとは、タレトでお別れとなった。

 

「お互い、冒険を続けていれば、いずれまたあえるだろう。その時はまた一緒に戦おう」


「はい。ぜひお願いします。ワタルさんもアーティファクトを手に入れられる事を願っています」


「ああ。その時は幼女じゃない方がいいな」


「そうですね……」


 そう言って笑いながら、僕らはリアを見る。

 

 そうそう、この子の名前は、リアに決めた。

 

「りあ、おなかすいた……」


 同時に、リアのお腹がぐーと鳴った。

 

「分かった分かった。何か食べに行こう。ついでにリアの服も買いに行こうか」


 タレトの町で食事をして、リアの服を買う為に店を探した。

 

 町外れに、猫目堂という怪しい店を見つけた。

 

「なんか怪しい店だな……入ってみようか」


「いや、行かないでしょ普通こんなアヤシイ店……」


 ミオは露骨に嫌な顔をしている。

 

「そ、それもそうだね。リアの服が売ってそうな感じでもないしね」


「うん。あってもせいぜい、魔女のローブとかだよここ」

 

 結局、僕らは宿の主人に服屋さんの場所を聞いて、無事にリアの服を買う事ができた。

 

 そして、リトルテルースに戻る事になった。

 

 僕とミオ、リアの三人はタレトの町で一泊して、次の日、リトルテルースに帰る事になった。

 

「はる、どこにいくの?」


「リア、これから僕たちの家にかえるんだよ」


「みおもいっしょ?」


「ミオは……うーんとね、一緒だけど一緒ではないというか……」


「りあとみおとはる、いっしょにくらせる?」


「えーっとね、僕らは今は一緒にいるけど、リトルテルースでは一緒に住んでいるわけではなくてね……」


「えー、やだ、いっしょがいい」


「そ、そうかい……困ったな、ハハ……」


 僕とミオは顔を見合わせる。


 ミオも困ったなという顔をしている。


 そんな事をだらだらと話しながら進んでいると、突然モンスターが現れた。

 

 大きめな猪の姿をしたモンスター、カオスボアだ。

 

「リア、危ないから下がってて」


 僕はリアを抱えて抱き上げ、安全そうな後方に連れて行こうとした。

 

 その時だった。

 

「りあもたたかう」


「戦うって……何を言って……」


「りあ、〝まけん〟だもん。はる、あいつをやっつけて」

 

 リアの双眸が怪しく光りを放った。

 

 リアの体が黒くヌメっとした液体に包まれたかと思うと、あっという間に鋭い切先を持つ黒く光る剣、魔剣の姿に変わった。

 

「リア……君は……」


「リアちゃん!」


 僕とミオは、お互いに顔を見合わせる。

 

 僕らは最近、よく顔を見合わせている気がする。

 この旅は、驚く事ばかりだ。

 

 リアが変化した魔剣で切りつけると、あっけないほどあっさりとカオスボアを倒すことができた。

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