第18話 ヘイズルーン

18話 野営

 

 僕たちは森の中で野営キャンプをした。


 カエデさんとワタルさんは森の中で野うさぎのような小動物モンスターを狩ってきて、焚き火を起こしてそのお肉を焼いてくれた。


 カエデさんが華麗に締めて綺麗に解体してくれて、串で焼いた肉に香辛料スパイスで味付けして食べたら、凄い美味しかった。

 

 カエデさんはアサシンの人たちに育てられる内に狩の仕方を覚えたらしい。

 調理器具はワタルさんが持ってきていた物で、地球テルースで使っていたキャンプ道具に似た物をこの世界でも探したり作ったりして集めたそうだ。

 キャンプ用品はどれも、コンパクトに閉まって持ち歩くことができるらしい。


 ワタルさん達、ベテランキャンパーみたいだ。

 

 僕たちは狩りの仕方ももちろん知らないし、解体なんてできっこない。

 同じレベル5でも、実際は全然違うんだ。

 

 凄いですねとワタルさんに言うと、はははと笑って、収納魔法が使えたらもっと色々持ち歩けるんだけど、残念ながら僕らには使えないんだ。

 もし、収納魔法使いを見つけたら、仲間に誘う事を勧めるよと笑いながら言っていた。

 

 食後にワタルさんは、小瓶に入った飲み物を背嚢ナップサックから取り出した。

 

 お酒の瓶だった。

 ラベルは、僕の知らない銘柄だ。

 

 ワタルさんは小瓶のコルクを開けて一口飲んだ。

 

 美味い。やっぱり食後はこれに限るな……君も飲むかい?と僕に瓶を差し出す。

 僕は頷いてワタルさんから瓶を受け取った。

 

 ウスキーだ。

 

 スモーキーなフレーバーだけどクセが強くなくて飲みやすい。

 肉料理の後にはぴったりだ。

 外で飲むのも雰囲気があって良い。

 瓶も小型で持ち運びやすい。

 

 こんなウスキーを見つけてくるなんて、さすがワタルさんだ。


「いいウスキーですね。見た事ないですが、どこの銘柄なんですか?」


「これはね、ハルくん、グラウレーベンという遠い異国の蒸留所で作られたウスキーで、名前は『ヘイズルーン』というんだ。この辺りでは滅多に出回ってないから、いつも見つけたら買い占めておくのさ」


「よくこんなマニアックなお酒みつけられますね」


「ああ、こういう滅多にない物を取り扱ってくる商人と知り合いでな。化け猫の姿をした変なやつなんだが、なにかと便利なのさ。今度ハル君にも紹介するよ」


「お願いします」


 お腹いっぱいになってお酒も飲んだ。

 

 僕はすっかり眠くなってしまった。

 

「君たちは眠るといい。俺とカエデで交代で見張っておくから、モンスターの事は心配しなくていいさ」


「でも、悪いですよ」


「心配することはないさ。君たちより、こっちは旅慣れてていつもの事だから、全然平気さ。むしろ、こういう旅に慣れていない君たちは、ちゃんと休んでおいた方がいい。疲れが取れなくて明日の戦闘で役に立たなくなる方が、困るからね」


「分かりました。では、お言葉に甘えさせてもらいます」


 そんな訳で、僕とミオは眠る事にした。

 

 背嚢ナップサックからブランケットを取り出し、ミオは体に巻いた。

 

「ハルは寒くないの?」


 ミオがブランケットに顔を埋めながら聞いてきた。


「僕は大丈夫だよ。ミオほど薄着じゃないしね。それにブランケットはそれしか持ってきていないから、気にしないで」


「じゃ、遠慮なく使わせて貰うね」


 僕はそのままで地面に横になった。

 

 ミオは疲れていたのか、地面に横になったらあっという間に寝息が聞こえてきた。


 僕は、しばらく眠れないでいた。

 

 明日は本格的に洞窟に入って魔剣の捜索か。

 果たして見つかるだろうか。

 

 ワタルさんとカエデさん、いい人そうだけど、信用しても良いんだろうか。

 

 しばらくはそんな事を考えていたけど、だんだん眠くなって、気がついたら寝てしまっていた。

 

 そして、ふと夜中に目が覚めた。

 

 起きたら僕の体にブランケットが掛かっていた。

 そして、いつの間にかミオがくっついてきていた。

 

 どうやら、僕が寝ている間にミオが僕にもブランケットを巻いてくれて一緒に寝ていたらしい。

 隣で気持ちよさそうに寝ているミオの体温が、暖かく感じる。


 僕はなんだか、安らかな気持ちになった。

 このままずっとこうしていたい。

 

 しばらく隣で寝息を立てるミオを見つめていたけど、そのうちだんだん眠たくなって、僕は再び眠ってしまった。

 

 気がついたら、朝になっていた。

 

 ……寒っ

 

 いつの間にか、ブランケットは無くなっていた。

 

 ミオがかなり離れた場所にいて、ブランケットをがっしり握りしめたまま大の字になって寝ていた。

 

 そうだった。

 ミオは寝相悪いんだった。

 それにしても、随分離れた所まで行ったな、あの子。

 

 でも、おかげでしっかり眠れた僕は、昨日の疲れを残す事なく取る事ができた。

 僕はゆっくりと体を起こし、ミオを起こしに向かった。

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