第16話 果実

 気がつくと、僕はベッドの中にいた。

 

 ……どうやら眠ってしまったようだ。

 

 僕は、白いシーツに絡まっている。

 服は着ていない。

 

 うーん、随分長い事眠ってしまっていたようだ。

 まだ、頭の中がぼんやりする。

 

 今、何時だろう。

 

 今日は仕事のある日だっただろうか……

 それとも、休日だったっけ。

 

 頭はぼーっとしてるし、目もまだぼんやりしている。

 良い匂いがする。

 

 がさがさ……

 僕はシーツ寝返りをうとうとして横になった。

 手が何か温かいものに触れた。

 

 ぼんやりしていた目がだんだんはっきりしてきた。

 目の前に、ミオがいた。

 

 ミオは僕と一緒にベッドで寝ていたらしい。

 ダメだ、よく思い出せない。

 

「ん……」


 僕の手が当たってしまった事で、ミオは目を覚ましてしまったようだ。

 まだ眠そうなのに申し訳ないことをしたかな。

 

 ミオはシーツを捲ると、ゆっくりと上半身を起こして顔に掛かった金髪ブロンドの長い髪を掻き上げる。

 ミオも裸だった。

 

 ミオは眠そうにブラウンの瞳を擦ると、僕の方を見てにっこりと微笑んだ。

 

 僕とミオは、さっきまで裸でベッドで寝ていたんだ。

 という事は、僕たちは、このベッドで昨晩一緒に過ごしたのだろうか。

 

 ……なぜだろう、思い出せない。

 

「どうしたの?ハル?」


 ミオはまどろんだ声で囁くように言う。

 

「ごめん、記憶が曖昧で、何にも思い出せないんだ……」


 困惑した僕を見て、ミオはくすくすと笑った。

 

「ハル……面白い……」


「面白くないって……大事な事なんだから……何か……何か大事な事を思い出さなきゃいけない気がするんだよ……」


 言ってから僕は、自分で言った事なのに、何で言ったのか分からなかった。

 大事な事って何だっけ……そんな事、思っていたっけ……

 

「ハル、忘れましょ。良いじゃない。ハルと私は、こうして一緒にいられるんだから……それだけじゃ、ダメ?」


「だ、ダメじゃないよミオ」


「ハル、私の事……好き?」


 ミオは少し甘えるように、囁くように。

 

「好きだよ……ミオ」


 僕も、思わず即答する。


 僕はミオのことが好きらしい。


 あれ、そうだっけ……

 

 いや、実際こうして一緒に寝ているんだ、多分、そうなんだろう。

 

 多分。

 

 きっと。

 

「ハル……」


 ミオの頬が赤く染まる。


「ん?」


 ミオは両手を広げる。

 

 アーモンドのような瞳。


 透き通るような肌。


 熟れたさくらんぼみたいなつやのある唇。


 ギルドのお姉さんほど豊満ではない、でも決して無いわけではない、形の良い胸。

 

 細い腕、しなやかに細く伸びた指、少し短めの爪。

 

 顕になるミオの上半身から、僕は目を逸らすことができない。

 

「ハル……来て」

 

「ミオ……」


「ハル……ねえハル……私のところに来て。私の胸に顔を埋めて……もっと、もっと一緒にいたい」


 僕は、我慢ができなくなってきた。

 もう、どうだっていいや。

 

「わかったよ、ミオ」


 ミオの顔がぱあっと明るくなる。


「ハル……もう一回……昨日みたいに激しく……しよ」


 ミオ!


 好きだ!

 

 僕はミオに抱きついて、ミオを押し倒す。

 

 ミオ……

 

 ミオ……

 

 ミオ……



「ハル……ハル……」


 ミオの声が聞こえる。


 そりゃそうだ。

 

 だって一緒に寝ているんだから、

 

「ハル?聞こえる?ハル?」

 

 一緒に寝ている?

 

 あれ?

 

 ここはどこだ。

 

 真っ暗だ。

 

 誰もいない

 

 僕はどうしてしまったんだ……

 

「ハル……ハル……ガガガ……侵入者……ガガ……排除……排除……排除……ハイ……ジョ……」


 ミオの声が無機質なロボットみたいになったかと思うと、急に聞こえなくなってしまった。


 

 そして僕は目が覚めた。

 

 

 ここは、ベッドの上なんかじゃなく、森の中だった。

 

 頭が痛い。

 

 ミオが僕の方を、心配そうに見つめている。

 ミオは服を着ていた。


 装備も持っている。

 

 そして、ミオの他に知らない男女がいた。

 

 僕はゆっくりと体を起こした。

 

 奥の方で、大きな金属のロボットみたいな物が倒れている。

 ロボットは煙を出して動かない。

 

「良かった。どうやら目が覚めたようだ」


知らない男の人が言った。


「良かったハル。このまま目が覚めないんじゃ無いかって……心配したよ」


 まだ頭がはっきりしない。

 

 裸のミオはどこに行ってしまったんだろう……


「ぼ……僕は……」


「君は、あの侵入者迎撃システムの精神攻撃にやられたんだ」


 見知らぬ男は、プレートメイルに剣という、冒険者風の装いだ。

 

「侵入者……迎撃システム……?」


「ああ。君はまだ冒険者になって間が無いみたいだね。あれは古代の遺物で、電波を出して、精神攻撃をして相手の心を狂わせるんだ。そして、相手が動かなくなったその後で、ゆっくり殺すのさ。そもう大丈夫、あいつは僕たちが倒したから」


 ……夢。

 

「僕は、精神攻撃を受けていたんですか……では、あれは夢……」


ミオは怪訝な顔をした。


「夢?ハル、私たちが心配してる間、夢なんてみていたの?で、どんな夢だったの?」


「え……あ、いや……」


 僕は、なんとか話題を逸らそうと誤魔化すのに必死だった。

 

 何を見てたかなんて、言える訳がない。

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