第15話 排除

 僕達は、リトルテルースから何日か掛けて馬車を乗り継いで、ウィザリス王国の端までやってきた。

 

 小さな港町タレトから、船を出してもらい、ようやくレマイエ島にやってきた。

 

 レマイエ島は、タレトの街から少し沖に出た所にある。

 地元の人も滅多に来ないような場所にある無人島だ。

 

 かつて、一千年前の第一次魔大戦の時には、この島にも人がいたらしい。

 だけど、今では誰も近寄ろうとしない。

 

 その理由はすぐにわかった。

 

「あの島にはな、恐ろしい化け物がいるんだ」


 船を出してくれた漁師のおじさんは、そう言った。

 

「モンスターですか?」


「いや、似てるけど違う物だ。まるで鋼のような金属でできたモンスターなんだ。それがウヨウヨいるんだ。あんなものは他では見た事がねえ」


 金属でできたモンスター……なるほど、そんなものが彷徨っていて、襲って来るような場所に、わざわざ行こうとは思わないだろう。

 

 僕たちは、漁師のおじさんの船で無事にレマイエ島に乗り込む事ができた。


 おじさんは、廃墟となった町の桟橋に船を停めて、僕たちを下ろしてくれた。

 

 おじさんが再び島にやってくるのは三日後。

 それまでにアーティファクトを手に入れられなければ、一度戻って体勢を立て直すか、諦めるかだ。

 

「ここ、昔は町だったんだね」


 崩れた石と蔦で覆われた建物が立ち並ぶ場所。

 

 千年前まで普通の港町だったであろうこの場所は、今では廃墟を通り越して、ただの遺跡と化している。

 

 今では誰もいない無人島は、ただ波の音だけが聞こえて来る。

 

 僕とミオは、互いに顔を見合わせた。

 

「さてどうやって、探そうか」


「知らないし……」


 ミオは困惑顔だ。

 

 僕たちは、この島に来るまでの情報は得ることができたけど、この島の情報は全く得ることができなかった。

 

「困ったね、とりあえず、この付近を歩き回ってみる?」


「そうするしかないようね」


 厄介なのは、漁師のおじさんに聞いた鋼のモンスターだ。

 

 ギルドのお姉さんは、レベルの高いモンスターに出会ったらすぐ逃げるようにと言ってくれたけど、そもそもギルドに情報がないモンスターでは、レベル差もわからない。

 

 あまり強くないといいんだけど……。

 

 僕たちはこの辺りを散策して、安全そうな場所を見つけたらそこを拠点に野営することにし、安全そうな場所がなければこの船着場を拠点にする事にして、探索を開始した。

 

 島の奥に進むと、鬱蒼と木が生い茂る森があった。

 僕たちは慎重に、森の中に入って行った。

 

 森の中は、背の高い木で覆われて、薄暗い。

 時折よく分からない鳥の鳴き声や、よく分からない獣の鳴き声がこだまして、その度に僕はビクッと体を震わせる。

 

 突然、キーっと甲高い猿のような鳴き声が響いて、僕は思わず身震いした。


「こ、怖っ」

 

「ちょ……ちょっと、くっつかないでよ。私だって怖いんだから」


「ご、ごめん」


 知らない間に、思わずミオの腕にしがみついてしまっていたらしい。

 僕は慌てて手を離した。


「ハルって……意外と怖がりなのね」


 くすくすと笑うミオ。


「いや、怖いだろ普通……」


「ひっ……」


 今度はミオが僕の腕にしがみついてきた。


「ミオだって怖がってるじゃん」


「今居たの!私の足に何か触れたの!」


「マジか……」


 僕はミオの足元を見る。

 特に何も見当たらない。

 

「もしかして蛇かな?」


「ちょっと……やめてよ」

 

「それとも、お化けゴーストとか」


 緊張感で叫び出しそうになるのを紛らわすために、ミオを揶揄からかってみる。

 

お化けゴーストならむしろ、ありがたいんだけど。私ヒーラーだから浄化できるし」


「……そういえば、そうだね」


 僕たちは、いつの間にかその場に立ちすくんでしまっていた。


「ねー、やっぱ帰ろ」


「いや、そういう訳には……やっぱ帰ろうか……」


 その時だった。

 

 ギュイィー!


 ギュイィィィー!

 

 無機質な甲高い音が辺りに鳴り響いた。

 鳥が一斉に、バサバサと飛び去って行く。

 

「な、何?」


 ミオは慌てて辺りを見回している。


「まさか……」


 僕も目を凝らして周囲を見やる。

 

 

 突然、頭の中に声が聞こえた。

 

 

——警告、侵入者、侵入者



「な、なんだこれは……」



——識別信号応答ナシ、外敵ト判断



 無機質な声が、僕の頭に直接話しかけてくる。


「声?声が聞こえるよ」


 頭の中に直接聞こえる声は、男でも女のでもない。

 感情のない、無機的な声……というか信号。



——迎撃プログラム、作動



 僕はとても、嫌な予感がした。


 頭の中の声は、次第に大きくなってくる。

 

 

——排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排——



……うわああああああああああっ。

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