第14話 ギルド

 僕たちは準備を整えた。


 街に行って背嚢ナップサックを買い、そこにコンパスとナイフと衣類、包帯に携帯食料レーションを詰め込んだ。

 

 火と水は、ミオの魔法でなんとかなるのらしい。


 僕とミオは旅支度を整え、店の入り口に臨時休業の張り紙をして、扉に鍵を掛けた。

 

 

 僕たちはリトルテルースの街を出る前に、まずギルドに向かった。


「はいこれ店のお金。ちゃんと預かってて下さいね」


 僕は背嚢ナップサックから重い麻袋と紙幣の束を取り出して、カウンターに置いた。

 

 ギルドのお姉さんは、麻袋からコインを取り出し、コインと紙幣の額を丁寧に数えて、魔導端末に入力している。


「はい。ちゃんと預かったわ」


 店のお金は、ギルドに預けるんだ。

 

 冒険者ギルドは大陸全土に張り巡らされたネットワークを有効活用して、銀行や貸金業もやっている。

 

 ギルドのセキュリティはファレユーロ大陸で一番堅牢だから、ギルドより安全なお金の預け場所は、この世界には無いだろう。

 

 

「ついこの間までまだ駆け出しだったハル君が、今やアーティファクトを探す旅に出るなるなんて、早いものね」


 お姉さんは、感慨深そうに僕を見ている。

 

「まだ見つかるかどうかはわかりませんよ。アーティファクトって、簡単には手に入らないんでしょ?」


 ギルドのお姉さんは、栗色でウエーブの掛かった長い髪に、胡桃色をした瞳をしている。

 

「そうよ。大陸中の冒険者がアーティファクトを求めて日々探し回ってるからね。手に入れられる冒険者は、ほんの一握りなんだからね」


 丸渕の眼鏡をくいっと上げるお姉さん。

 

「やっぱり、簡単には見つけられないものなんですね」


 ギルドの金銭管理を任されているだけあって、もともと頭が良さそうな印象なのだけれど、丸渕の眼鏡でさらにそれが強調されている。

 

「そうよー。レマイエ島なんて聞いた事がないけど、よくそんな情報を手に入れられたわね」


 それに、張りがあって輪郭が際立っている胸元。

 誰もが釘付けになってしまう。


「僕も驚いています。でも、聞いたからには行かない訳には行きませんよね」


 見ないように努めているのだけど、つい目が行ってしまうんだ。

 きっと、これもこの世界の魔法だ。


「そうね。それが冒険者のさがというものね。情報が本物だといいね、ふふ」


 僕がお姉さんの胸元から視線を動かせないでいると、隣のミオに小突かれた。

 慌てて視線を戻し、背嚢ナップサックを背負い直す。


「じ、じゃあ、行ってきます」


「あ、待って……」


 踵を返してギルドを出ようとした僕たちを、お姉さんは慌てて呼び止めた。


「な、なんでしょう」


「ハル君とミオさん、行く前にステータスを確認してみて」


「は、はい」


 僕は首に掛けて服の中に入れていた冒険者タグを取り出し、音声でステータスを呼び出した。

 ステータスの文字が空中に浮かび上がる。

 

————————————


NAME:ハル・クオン


JOB:ADVENTURE

LEVEL:5


HP:246

MP:23

OFFENSE:58

DEFENSE:24

SPEED:12

VITALITY:35

IQ:16

LUCK:14


EXPERIENCE POINT:458


————————————



「これでどうです?」


「ええ、良いわ。じゃあミオさんも」


「はーい」


 ミオも同様にステータスを呼び出した。


————————————


NAME:ミオ・ツムギ


JOB:HOLY GIRL

LEVEL:2


HP:73

MP:220

OFFENSE:14

DEFENSE:8

SPEED:14

VITALITY:17

IQ:43

LUCK:35


EXPERIENCE POINT:741


————————————


お姉さんはステータスを確認した後、僕らの方は向き直った。


「これが現在のあなたたちのステータス。ステータスは、ギルドが長い年月をかけて大陸中の冒険者のデータを集積して作り上げたシステムに基づいて計算しているの。このステータスをちゃんと覚えておいてね。自らの実力を過信しすぎちゃだめよ」


再びお姉さんが眼鏡の縁をクイッと上げる。


「わかりました」


「モンスターのレベルもギルドが選定しているんだけど、それも、先人たちが命をかけて集めて来たデータなのよ。だから、自分のレベルより強いモンスターに出会ったら、無理に戦ってはダメ。退くのも勇気だからね」


「肝に銘じます。ありがとう、お姉さん」

 

 

「じゃ、改めて、行ってらっしゃい」


 手を振るお姉さんに別れを告げて、僕たちはギルドを後にした。


 リトルテルースを出た僕たちは、一路港のある街、タルトに向かった。


 目指すはレマイエ島だ。

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