第13話 猫目堂

 俺の名前は、杣矢そまやわたる

 そして、となりにいるのは薙辻なぎつじかえで


 俺と楓は、どちらも転生者だ。


 俺と楓はどちらもレベル5の冒険者だ。


 俺達は、どうにかレベル6以上になりたくて、この一年ずっと、かえでと一緒にアーティファクトの情報を追っていた。


 東に魔法珠オーブの情報があれば、駆けつけてその真相を探し回り、西に魔法薬ポーションの情報があれば、やはり駆けつけて真相を探る。

 

 しかし、いつも情報は空振りだった。


 たまに本当の時もあるが、先をこされて他の冒険者の手にアーティファクトが渡った後だった……なんて事もあった。

 

 アーティファクトは、早い者勝ちだ。


 手に入れたものの所有物となる。


 ギルドの契約ルールでも、そう明記されている。


 だから、手にれる為に手段を選ばない者もいる。

 

 しかし、俺はそんな奴らとは違う。

 汚い手を使って取ったアーティファクトに興味はない。


 だから、いつも誰より早く手にいれようと、情報を必死で追っていた。

 

 その街は、王都から随分離れた場所にあった。

 

 

 この情報屋は、俺が信頼していて何度か情報を貰っていた。

 

 だからと言って、いつも情報を得られる訳ではない。


 今度も、ダメ元で来てみた所だ。

 

 ——猫目堂

 

 そう書かれた看板が掛けられた建物は、町外れにひっそりと佇んでいる。

 

 建物の中は、乱雑に物が積まれている。


 異国から持ち込まれた、謎の置物とか、謎の壺とか、謎の巻き物とか、謎の女神像とか……


 とにかく、謎の物が多い。

 いつ来ても、不思議な店だった。


 一体、店主はいつもどこからこんな物を仕入れてくるのだろう。

 それに、誰が買うのだろう。


 いつ来ても人がいないこの店で、ちゃんと生活していけているのだろうか。


 もしくは、俺の様に情報を買う冒険者がいるから生活していけているのかもしれない。


 まあ、そんな事はどうでもいい。

 

 楓の方はというと、手持ち無沙汰に店内を物色し、置物を手にとっては物珍しそうに眺めている。

 

 俺は、店のボロいカウンターに置かれたベルを手に取り、鳴らす。

 

 店の奥から、ぬっと大きな影が現れた。

 

「よお、ネコメ」


「ワタル、カ。ヒサシブリダナ」


 俺の挨拶に、カタカナで挨拶を返すこの人物。


 いや、そもそもヒトなのだろうか。


 猫目堂店主のネコメだ。

 

 いつ見ても不思議な姿をしている。


 普通の人と同じくらいの身長で、2本足で立っている。


 だが、その姿は真っ黒な毛並みの人猫。

 

 魔法でケット・シーの姿に変えられているが、本当は人間……という噂もあるが、定かではない。

 

「ワタル、ナニヲカイニキタ?」


 ネコメは、猫の顔から伸びた髭を肉球のついた指で撫でながら、目を細める。

 

「情報が欲しい。アーティファクトの情報なら何でもいい。何か無いか?」


 ケットシーという妖精の存在を聞いたことはあるが、目の前のこの生き物は、妖精というよりは、化け猫と言った方がしっくりくるだろう。

 

「ニャ、ソウイウトオモッテタゼ。トッテオキノジョウホウガアルニャ」


「へえ。それはどんなアーティファクトだい?」


「マケン・ルクス・リア」


「ほう……」


 俺は、久しぶりに胸の奥が熱くなるのを感じた。

 店内にある謎の置物を手にとって眺めていた楓も、その手を止めてネコメの方を見た。

 

「教えてくれ、その情報。金なら出す」


「二ャニャニャ、オマエナラソウイウトオモッタゼ」


 ネコメはゴロゴロと喉を鳴らし、顔を近づけて来た。

 

「アンシンシロ、コノジョウホウハ、ホンモノダ」


 こうして俺は、魔剣ルクス・リアの情報を手に入れた。

 レマイエ島に渡る船を探して、装備も整えた。


 いよいよ、島に渡る時が来た。


 船着場をざっと眺めてみた感じでは、まだ、この情報は他の冒険者に知れ渡っていないようだ。


 あのネコメ、どうやって情報を得たんだ。

 まあいい。

 魔剣は俺が貰い受ける。

 今度こそ、レベルを上げてやるぜ。

 

 俺と楓は、意気揚々とレマイエ島へ向かう船に乗り込んだ。


 俺はなんとしても、魔剣ルクス・リアを手に入れたい。

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