第12話 来訪

「ハル……みつけた」


 そこにいたのは、フェオだった。

 

「フェオじゃないか……どうしてここがわかったの?」

 

 フェオに会うのは、ライセンスの第二試験以来だ。

 

「ハルのにおいをたどってきた」


 僕、そんなに匂いするのか……


「そ、そうなんだ……」


 店の奥からお目当てのワインを手にほくほく笑顔でミオが戻って来た。

 

「ねえハル、その子は知り合い?」


 今度はまた、入荷数の少ないレアな赤ワインを手にしている。

 また貴重なのを開けられてしまうな……


「ああ、ミオに紹介するよ。フェオだよ、冒険者ライセンスの資格試験で一緒に試験に挑んだんだ」


「そうなんだ。可愛らしい子ね、フェオは何にする?」


 ミオは、フェオを店の中に招き入れた。

 フェオはフードをかぶったままミオに軽く会釈をすると、僕のいる席まで、てくてく歩いてきた。

 

「ミルク」

 

 フェオは即答すると、ちょこんと椅子にすわった。

 

 僕はカウンターに行き、氷魔法が効いた箱れいぞうこから、冷やした乳飲料ミルクを取り出してグラスに注いだ。

 ちなみに乳飲料ミルクは、ちゃんと防腐魔法を掛けて保存している。

 

 フェオはグラスを両手でわしっと掴み、ちびちびと乳飲料ミルクを飲んでいる。


「それにしても、今日はどうしたの?」


「ハルに、おしえにきた」


 フェオはミルクを飲む手を止め、僕の方を真っ直ぐ見つめる。

 

「教える?」


「ハル、〝あーてぃふぁくと〟しってる?」


 フェオの言葉に、僕は驚いた。

 その単語は今まさに、ミオに聞いた所だ。


 赤ワインを飲むミオの手も、ピタッと止まった。

 

「あ、うん。知ってる……というか、今知った」


「ハル〝魔剣ルクス・リア〟しってる?」


「魔剣……?知らないな。ミオは何か知ってる?」


 僕はミオの方を見た。

 ミオは無言で首を横に振っている。

 ミオも、その魔剣の事は知らないらしい。

 

「フェオ、魔剣ルクス・リアっていうアーティファクトの情報を掴んだんだね」


「うん」


「どうして、それを僕に教えてくれるの?アーティファクトは貴重だって聞いたけど」


「ルクス・リア、つかえない。ハルなら、使えるとおもった」


 さっきミオは、アーティファクトにも種類があると言っていた。

 

「そっか、フェオは死霊術師ネクロマンサーだったね」


「うん。剣はにがて。ハルはしけんのときに一緒にたたかった。ルクス・リアはハルに手に入れて欲しい」


「ありがとう。僕も、これからアーティファクトを探そうとしていた所だったんだ」


「……レマイエ島」


「島?」


「そこにルクス・リアがある」


 僕は再び、ミオの方を見た。

 ミオは既にグラスを置いて、フェオの話に聞き入っている。

 

「レマイエ島なら、聞いたことがあるわ。ここから少しあるから、その間店を閉めなきゃだけど、行けない距離じゃない」


 僕はミオに頷いた。

 じゃあ決まりだ。


「いそいだ方がいい。もう何人かが聞きつけて、むかっているって聞いた」


「そうなんだ、ありがとうフェオ。僕たちもいそいで向かうよ」


 フェオは頷いて、ミルクを飲み干した。

 

 椅子からひょいと降りると、グラスをミオに渡す。


「ミルクありがと」


「あ、いえいえ」

 

「おねえさん、回復士ヒーラー?」


「あ、うん、そうだよ。て、私教えたっけ?」


「おねえさん、ハルを護って」


 フェオはそう言い残して、さっさと店を出て行った。


 ミオは、フェオが去って行った扉の方を少しの間見つめていた。


「私、酔ってるのかな……」


 酔ってるけどね。

 十分すぎるくらいに。

 

 でも、フェオのおかげでタイミングよくアーティファクトの在処がわかったのは、有り難かった。

 レマイエ島か……どんな所だろう。

 

 そして魔剣ルクス・リア……どんなアーティファクトなんだろう。

 楽しみだ。

 

「魔剣かー、残念だけど、聖女シスターの私には扱えないわね。フェオちゃんがいう通り、ここはハルに使ってもらうのが一番ね」


「ま、手に入れられたら……だけどね」


「そういえばフェオちゃん、死霊術師ネクロマンサーだって言った?」


「そうだよ」


「あの子……魔族なのね……初めて見たわ」


「魔族?」


「ええ。でも、普通の魔族は魔大陸から出られないと聞いてるんだけど……あの子、ああ見えて実力は私達より上かもね……」


「まっさかー。だってフェオだよ。確かに、見た目は子供みたいだけど、僕たちとそんなに変わらないよ。はははっ」


「それもそーねー。高レベル魔族がこんなところに来る訳ないよねー。あははっ」



 そう、僕たちは、酔っていた。




 ———— あとがき ————


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 再びあとがきを書きたいと思います。


 エッセイもあるのでそっちで書けば……という気もしなくはないし、あとがきは単なる雑談ですので、ここから先は読み飛ばしていただいても構いませんです。

 

 さて、前回の第11話で登場した白ワイン『ドメーヌ・ド・アルファヴィル』ですが、現実には存在しない、完全な創作オリジナルです。


 でも実は、初出ではないのです。


 拙作『異世界アニメーターはアニメタップで攻撃します。』

 その第20話で登場した、異世界の居酒屋で出てきた物でした。

 異世界アニメーターの方はフランスをイメージしているので、ドメーヌ・ド・アルファヴィルはフランス産ワインみたいな感じと思って頂ければ。


 もちろん、この話の異世界とは別の異世界なので、話どころか世界観自体が別物です。

 全く繋がっていないのですが、もしかしたらこちらの異世界にも別大陸にアルファヴィルのような国があり、そこからワインのインポーターが来ているのかもしれません。


 ちなみにですが、ヒロインのミオという名も拙作『ゆるふわ電脳クロニクル』に同じ名前のキャラクターが出てきますが、こちらも別人なのです。


『ゆるふわ電脳クロニクル』の最終話は、一旦話が綺麗に終わった後、急展開になって、この先何かありそうな余韻を残したまま終わっているのですが、これは意図的にアメリカの打ち切りになったテレビドラマの最終話パロ……オマージュをやっているのです。

  なので、あれで完全完結なのです。

(なんでそういう事をするのかと言われても、思いついちゃったからついやってしまいました……なのですが)


 以上、まったくの余談でした。

 では、引き続き『バーテンダーの僕は週末、冒険者になる。』をお楽しみください。

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