第11話 アーティファクト

 僕とミオは、それからもある時には店の定休日に出かけたり、またある時には店を臨時休業にしては出かけて行った。

 

 臨時休業にする時はたいてい、強いモンスターが最近近くに現れたと噂が流れてきた時だったりする。

 

 強化魔法バフによって強化される僕のステータス上昇値は、レベル5相当になっていた。

 つまり、レベル5のモンスターを相手にしても勝てるくらいの値になるって事らしい。

 

 おかげで何度か休みの日に出かけていたら、あっという間に経験値が溜まって、僕はレベル5になった。



「ハルもこれで、私と一緒のレベル5だね。おめでとー」


 誰もいない店の中、僕とミオはグラスを傾けて乾杯した。


 今日はミオの奢りらしい。

 店のメニューから、好きな物飲んでいいよとミオは言った。

 ま、それを作るのは僕だけど。

 

 僕は結局、セイレーンの涙をベースにして、調合を変えて新たに別の果実水ジュースを混ぜた実験作を作った。

 美味しかったら、新作カクテルとしてメニューに加えよう。


 ミオは、ドメーヌ・ド・アルファヴィルの白ワインを開けていた。


 これ、アルファヴィル地方でしか作れないワインで、仕入れるのに苦労したやつだ。

 忘れないようにちゃんとミオの給料から天引きしておこう。

 

 でも実際、ミオが毎回手伝ってくれおかげで、レベル5になれたのだから、もちろん感謝していないわけではない。


「おかげでレベル5になれたよ。ありがとうミオ」


 僕は素直にお礼を言った。

 

「ハル、喜ぶのはまだ早いわ。これからなのよ、大変なのは」


 ミオの頬は、ほんのり赤く染まっている。

 

「そうなんだ……ミオと一緒のレベルになれたから、十分強くなれた気がするんだけどね」


 僕が作ったカクテルは、今ひとつだった。

 不味くはないけど、新作メニューとして出すには何かが足りない。

 今度また調合を変えて作ってみよう。

 

「そ。レベル5ってのはね、壁なの。本来人間が持っている身体能力では、レベル5で限界を迎えるの。だから冒険者にはレベル5が多いのよ」


 ミオは、空になったグラスにボトルからワインを注いでいる。

 ペース早くないかな……高いんだけどそれ。

 

「じゃあ、それより先のレベルに上がるにはどうすればいいの?」


「レベル6より上に上がるには、経験値をただ貯めても認定してもらえないわ。ここから先に行くには、人間の限界を超えないと、認めてもらえないの」


 僕は、ミオの言葉でリュウさんを思い出した。


 リュウさんのあの、人間とは思えないものすごい跳躍力、ドラゴンを一瞬で切り捨てたあの剣技……たしかに、どれも人間の限界を越える動きだった。

 

「そうか……たしかに、レベル10のリュウさん、人間とは思えない動きだったな……レベルさえ上げれば

あんな風になれるのかと思っていたけど、そんなに甘くはないんだな……」


「そうよ。ギルドがレベル6以上を認定してくれるのは、特殊な能力をもつ者だけなの。それはつまり、〝アーティファクト〟を持つ者って事でもあるわ」


 アーティファクト……初めて聞いたな。


「それって、何なの?」


「簡単に言うとね、魔法のアイテムみたいものなの。魔法のアイテムの中でも、圧倒的に人間の能力を高める性能を持った武器や防具、魔具がこの世界には幾つか存在するのよ。それを手に入れて、使いこなした人だけが認定されるんだ……このワインおいひ」


 ミオは、ドメーヌ・ド・アルファヴィルをまるでシャンパンの様にごくごくと飲んで行く。

 もうすぐボトルの方が空になりそうだ。

 

 まだ在庫あったっけ……次にいつ、アルファヴィルのインポーターが来るのか分からないから、当分入荷するのは無理だ。

 せめてその前に、僕も一口飲んでおきたいんだけど。

 

「その〝アーティファクト〟を探すのが次の目標になる訳だ……でも、それはどこにあるんだろう」

 

「簡単に見つかったら、苦労はしないわ。私だって、ずっと探してるけど見つからないから、レベル5のままなんだからね」


 ミオはとうとう、僕も一口……という前にワインを全部飲んでしまった。

 空のグラスを手に持て余して揺らしている。

 この様子では、まだ飲み足りない感じだ。

 

「そっか……そうだよね」


「〝アーティファクト〟の仕組みは、まだ殆ど解明されていないんだけど、色々と種類があるって事だけは分かってるの。強さも色々あって、装備しているアーティファクトの強さに応じて、ギルドはレベルを設定しているのよ」


「なるほど、つまり、アーティファクトの強さによってレベル6だったり、いきなりレベル10にもなったりできるって事だね」


「そうね。レベル6でもむちゃくちゃ強いんだけどね……もうちょっと飲みたいな……おさけ……」

 

 ミオはフラフラした足取りで立ち上がって、ワインセラーの方に歩いていった。

 これは、ソファーで夜を明かすパティーンだな。

 

 ミオが店の奥に消えていった、その時だった。

 

 カラン……と店の扉に付けた鈴が鳴る音がした。

 

 今日は定休日だけど、この席にだけ明かりが付いている。

 窓から明かりを見たお客さんが、営業中と間違えて入って来たのかもしれない。

 

 僕は断ろうと、扉の方を振り向いた。

 

「ハル……みつけた」


 そこにいたのは、フェオだった。

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