第9話 ボスゼリー

 週末。

 

 僕とミオは、店を休みにして装備を整え、リトルテルースの街を出てモンスター出没地域を目指した。

 

 僕の装備は、冒険者ライセンス資格試験の時から変わっていない。

 革鎧プレートメイルに、鋼鉄の剣ロングソードだ。

 

「ねーハル、その鎧、邪魔じゃない?」


「邪魔じゃないよ。それに鎧がないと危ないじゃないか」

 

 ミオの方はというと、肌の露出が多い、赤い色のドレスを着ている。

 そう、ドレスだ。

 

 結婚式に呼ばれて来たら新婦より目立ってしまった的なタイプの。

 戦闘に赴く装備というよりは、パーティに行くみたいだ。

 

 僕がミオのドレスを見ている事に気がついたのかミオは胸元を隠す仕草をした。

 

「スケベ」


「?!……いやいや、そういう目で見てないから」


 ごめん、本当はちょっとそういう目で見てた。

 

「というか、これから戦闘に行くのに、そんな薄着で大丈夫なの?」


「あー、その事。じゃあミオさんが、ハルに説明してあげるね」


 ミオの説明はこうだ。

 

 この世界では、僕たち転生者はバフによる強化がかなり大きい。

 それは、ハーフであるミオも同じだった。

 

 バフの効果が大きすぎるが故に、普通の鎧よりもバフで身を守る方が効率が良い。

 むしろ、防御の効果が低い上に動きにくいので、ゴテゴテした鎧はかえって邪魔になる。


 それに、バフの威力は、マナの力を多く受け取った方がより強く現れる。

 つまり、露出が多い方が効果が強くなる。

 

 というわけで、転生者にとっては、より動き易く、そして露出が多い服の方が、結果として身を守るのには適しているのだそうだ。

 

「知らなかったな」


「ま、ちゃんと魔法でマナを制御できる様になるまではバフの効果を常に得る事はできないから、最初のうちは鎧で身を守った方がいいかもだけどね」


「なるほど」


 それでミオの装備はこんなに身軽で露出が多いのか。

 

「さて、じゃあハルのお手なみをみせて貰おうかな。手頃なモンスターいないかなー」


 と、僕たちはタイミングよくモンスターを発見する事ができた。

 

「あ、いたいた……ハル、あれと戦おう」

 

 そこにいたのは、見た目はカオスゼリーと同じだけど、姿が一回り大きくなったモンスターだった。

 

「あれは……ボスゼリー!」


 僕はもちろん、ボスゼリーとはまだ戦った事がない。

 

「よし!行くぞ」


「あ、待ってハル!」


 僕は剣を抜いてボスゼリーに向かおうと駆け出した。

 でも、ミオは僕の袖を引っ張った。

 僕は慌てて、立ち止まった。

 

「な、何……どうしたの?」


「ハル、私の戦闘職ロールはなんだと思う?」


 そういえば、ミオは剣とか槍とかの武器を持っていない。

 腰に小さな杖を刺していた。

 この杖は、回復魔法を使う時の物だ。

 

「あ、もしかして回復士ヒーラー?」


「そ。正解ね。そしてジョブは聖女シスターよ」


 そういえば、ミオはルクネリア皇国に留学に行っていた。


 ルクネリア皇国といえば、ルクネリア教の総本山だ。

 ミオは聖女シスターとしての勉強の為にルクネリアまで行っていたのか。


「だけど、私はそんじょそこらの回復士ヒーラーとは違うわよ」


「どういう事さ」


「私の場合、回復よりも強化バフの方が得意なの。バッファー型ヒーラーね」


「それ……回復が苦手なだけじゃ」


「なんか言った?」


「いや……」


「という訳で、ハルにとっておきの強化魔法を掛けてあげるわ。これでさくっとモンスターを倒しちゃってよ」


「うん。頼むよ」


 ミオは僕に、強化魔法を掛けてくれた。

 強化魔法のバフ効果で、いつもよりも体が軽くなったきがする。


「よし、じゃあボスゼリーを倒してくるよ」


「がんばってー」


 僕は踵を返し、ボスゼリーに向かって走り出した。


 あれ、なんか……


 前に強化魔法を掛けて貰った時よりもさらに体が軽くなった気がする。


 僕は、あっという間にボスゼリーに辿り着いた。


 ボスゼリーは、僕に気がついて、慌ててその体を分裂させた。


 ボスゼリーの特徴は、その体を分割させて、それぞれが別々に動いて攻撃ができる事だ。


 今のボスゼリーは五つの体に分裂している。


 それぞれが、カオスゼリー一体分くらいの攻撃力があるらしい。


 僕は、一体目のボスゼリーを攻撃した。

 僕の剣であっさりと潰れてしまう。


 でも、僕が次の攻撃を繰り出す前に、分裂した残り四体が同時に襲ってきた。


 避けるのが間に合わないかも……


 と思ったけど、ボスゼリーの攻撃をあっさりと躱す事ができた。

 僕の動きが、すごく早くなっている。


 そのまま、四体のボスゼリーに向かって順番に剣を振り下ろす。


 僕の剣は、途切れなく四体のボスゼリーを捉え、あっさりと倒す事ができた。


 さすがミオのバフ、凄い効果だ。


「ミオ、ありがとう。ミオの強化魔法、凄い効果だね」


 僕は振り返って、ミオに礼を言った。

 


「え……なんで……私の強化魔法、そんなに強くなるはずないんだけど……ハル……あなた一体……」


 ミオは、なぜか顔を強張らせて立ち止まっていた。

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